禅宗らしい絵画とは? 禅僧の肖像画が弟子たちに、私たちに語りかけるもの
クール・ジャパンの代表ともいわれる「禅」。その精神世界やライフスタイルにあこがれを抱く人は国内のみならず海外にもたくさいます。禅僧になるためには厳しい修業が必要ですが、禅寺は「禅」を必要として門を叩く人たちを意外にも気軽に受け入れ、座禅会などを通じてその伝統と文化を今に伝えています。 禅美術の名宝展「禅ー心をかたちにー」4月12日から京都国立博物館で開催 そんな禅の絵画や仏像、工芸品などの禅の芸術作品の数々を集めた展示会、「禅ー心をかたちにー」が京都国立博物館で始まりました。今回は禅の「絵画」にスポットを当てて、同展をより一層深く楽しむ方法を紹介していきます。
禅僧の肖像画が語りかけるもの
禅宗を取り巻く絵画は本当に多種多様です。禅僧の肖像画もあれば、禅の悟りやその契機などを描いた禅機(ぜんき)画や仏画、水墨の山水・花鳥・人物・走獣画などもあって、しばしばそのバリエーションの豊かさに目を奪われたりもします。思うにこうした多彩な状況が生まれたのは、禅宗がわが国の文化をつねにリードし続けてきた結果なのでしょう。 では、これらの中で最も禅宗らしい絵画とは何でしょうか。やはり第一に挙げられるのは、禅僧の肖像画です。もちろん肖像画それ自体は他の宗派でも制作されているわけですが、禅宗のそれには他派には見られない特別な意味や機能がありました。 それは肖像画が法を嗣(つ)いだことの証となっていたことにほかなりません。わかりやすく説明すると、まず弟子が師の肖像画を用意して師に渡します。師はその肖像画の上に法語(ほうご)を記し、弟子に戻します。これによって、弟子は正式に師の法を嗣いだことになるというものでした。「以心伝心(いしんでんしん)」「不立文字(ふりゅうもんじ)」という達磨(禅宗の初祖)の言葉が物語るように、物事の真理は経典などで伝えられるのではなく、心から心へ、師から弟子へと受け継がれていくというのが禅宗の教えです。つまり、弟子にとって師は絶対的な存在であり、その肖像画は師の分身だったという見方もできるかもしれません。そうした師に対する畏敬の念は、禅僧の肖像画(彫刻も含む)を崇高な如来(にょらい)の頭頂部にたとえて、頂相(ちんそう)と呼んでいることからも容易にうかがい知ることができましょう。