衆院選と米国大統領戦で見えた日本とアメリカ「残念なほどの違い」、アメリカにあって日本にない議論とは?
また、中国製のEV(電気自動車)への関税を25%から100%に引き上げたし、電気自動車用のリチウムイオン電池や半導体などへの関税を引き上げた。また、経済安全保障政策の一環として、中国向けの半導体の輸出規制を強化した。 ハリス氏は、大統領選で、「次世代産業分野で国際的なリーダーシップを得るための投資を進める」とし、バイオ、航空宇宙、AI、量子コンピューティング、ブロックチェーン、クリーンエネルギーを重点的な投資分野に挙げた。また、クリーンエネルギー技術などの先端分野の国内拠点作りを促進する税制によって、中国との競争に勝つとした。
これらを経済と安全保障に不可欠の分野と位置づけ、「アメリカ・フォワード戦略」を作成するとした。 以上で見たような論争が起きるのは、ほぼアメリカに限定されたことであると言ってよい。先ごろ行われた日本の総選挙において何が争点だったかを思い出してみよう。 ここでの最大の争点は、政治資金の問題であった。それが重要な問題であるのは間違いない。しかし、経済問題に関して何が争点だったかを思い出すことができない。そもそも、争点とすべきことがなかったと言っても過言ではないだろう。
■日本経済が変化していないから「争点」がない 日本経済に問題がないから、争点がないのではない。そうではなく、日本経済が変化していないから、争点がないのだ。 これは、いまに始まったことではない。1980年代からの中国の工業化によって、日本の製造業は大きな影響を受けた。しかし日本は、アメリカのように新しい産業を成長させることによってそれに対応したのではなく、従来の産業構造を温存することを目的にして円安、金利金融緩和の方向を取った。
このため、日本は失業率の大幅な上昇というような深刻な問題に直面することはなかった。しかし、その半面で、産業構造の改革が進まなかった。そして、世界経済における日本の地位が低下した。 日本の場合、現在の日本で支配的な産業は、1980年代に支配的な産業とほとんど変わらない。それは、従来タイプの製造業や金融業だ。サービス産業に新しい企業が現れているのは事実だが、それが経済構造を大きく変えるまでには至っていない。
アメリカの場合に国論が分裂するような争点が提起されるのは、国全体がダイナミックに変化していることの反映なのである。
野口 悠紀雄 :一橋大学名誉教授