衆院選と米国大統領戦で見えた日本とアメリカ「残念なほどの違い」、アメリカにあって日本にない議論とは?
その典型が半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)であるが、同じことが他の多くのIT企業についても言える。アメリカの時価総額リストの上位にある企業のトップの多くが、移民、あるいは移民の子で占められている。 ラストベルトで失業している人々がこうした状況を見れば、自分たちの職が、新しくアメリカに入ってきた人々によって奪われたと考えたとしても、やむをえないだろう。 ただし、こうした変化によってアメリカ経済が全体として繁栄していることも事実である。こうした変化を通じて、世界経済におけるアメリカの地位が向上したのだ。
ところが、トランプ氏は、従来の産業の中心であったタイプの製造業を守ろうとする。そのために、中国からの輸入に対して関税をかける。そして、移民に対しても制約的な政策を取ろうとする。 経済全体の合理性の立場から言えば、こうした方向が誤りであることに間違いはない。だから、経済政策をめぐって対立が生じる。 今回の大統領選において、ハリス氏の経済政策は法人税の引き上げなどが盛り込まれていたため、反企業的と見なされた。それに対して、トランプ氏の政策は企業に有利と考えられた。
■「MAGA」はアメリカを結果的に弱くする しかし、これは皮相的な見方だ。トランプ氏が古いタイプのアメリカ製造業を復活させようとしているのは、まったく間違いだ。高関税の賦課は国際分業を阻害する。その結果、長期的に見れば、アメリカの成長の阻害要因になる。 トランプ氏は国際分業のメリットを知らないと言わざるをえない。とくに比較優位の原則を理解しているとはとても思えない。その結果、「MAGA(Make America Great Again、アメリカを再び偉大に)」として行う政策が、かえってアメリカを弱くしている。
これに対して、ハリス氏は、ラストベルトは、新しい産業によって復活していると、正しく指摘している。 アメリカが貿易制限策をとれば、その影響は、アメリカにとどまらず、全世界に及ぶ。特にに日本は大きな影響を受ける。 関税だけでなく、さまざまな規制によっても影響をうける。とく対中関係でそうだ。 もっとも、バイデン、ハリス両氏の現政権が、自由貿易を積極的に進めたわけではない。トランプ氏が大統領時代に引き上げた関税は据え置いたし、中国製の鉄鋼やアルミニウムの輸入制限措置も継続した。