男性3人から1億5500万円を騙し取った「頂き女子」りりちゃんの”マニュアル”を心理学者が分析
SNSや出会い系サイトで出会った3人の男性から計約1億5500万円を騙し取ったとして詐欺罪で逮捕・起訴され、二審でも懲役8年6ヵ月、罰金800万円の判決がくだった「頂き女子りりちゃん」こと渡辺真衣被告(26)。 【なんと細かい!】流出した「頂き女子」りりちゃんの”騙し”マニュアル 彼女が作成した「1ヶ月1000万稼ぐ頂き女子りりちゃんの【みんなを稼がせるマニュアル】」がインターネット上に流出している。約10万字にもわたる情報商材で、販売価格は2万8000円だった。 ◆おぢから「助けたい」と言わせて“頂く” 渡辺被告は親からDVを受けて育ち、20歳ごろから満たされない愛情をホストに執着することで埋めていたという。 《20歳の時に大好きなホストのために結婚しました。知らないベトナム人と》 渡辺被告はこうXで発信していた。ベトナム人が日本に滞在できるよう偽装結婚し、その見返りとして報酬を受け取っていたことを匂わせていたのだ。貢ぐために赤の他人と結婚するほど「ホス狂い」だったのである。 「頂き女子」なる詐欺に行き着いたのもホストに貢ぐカネを稼ぐため。渡辺被告によれば、これは彼女が編み出した“男性との新たな関係性”であり、パパ活との違いをマニュアル内でこう説明している。 《頂き女子とおぢは対等な関係です。ただ、おぢから見て女の子は輝く大切な存在です。頂き女子を簡単に説明すると ①信頼関係コミットをおぢにしてあげる ②おぢを無害ガチ恋にする ③困ってる時におぢの方から『助けたい』と言わせてお金を稼ぐ》 ぞっこんにさせ、自ら貢ぐように仕向ける。これが「頂き女子」なのだという。そのために重要なのが「リリコミット(信頼関係の構築)」だとしている。 《しっかり信頼関係構築コミットをしてあげていれば『いつも僕と話してくれて元気くれてるからこの子が困ってるならお金を渡そう』という思考になります》 「頂き女子」は金目当てだと見抜かれないよう、身なりも性格も“男慣れしていない純粋無垢な女の子”でなければならない。そして「生活に困っている」感を出すのが重要だとマニュアルには書かれている。 ターゲットとなる「おぢ」は3種類にカテゴライズされている。下記はマニュアルをもとにフライデーがまとめたものだ。 ①「ギバーおぢ」(良いおぢ):独身で夢や希望がなく恋愛経験が少なく、自分のことより人が尽くすことを考えるため引っ掛かりやすい。信頼関係構築コミットがしっかりできていたら、3桁の頂きがスムーズにできる。 ②「マッチャーおぢ」(中間):50~250万までなら頂きやすい。 ③「テイカーおぢ」(くそおぢ):上から目線で自慢話ばかりしてきて、人の話を聞かず、自己中心的。引っ掛からない。 随分な言われようだが、心理学者の富田隆氏に言わせれば「ギバーおぢ」をメインターゲットにしているのは理に適っているという。 「社会的動物である人間には“誰かを愛したい”という欲求が備わっています。これは、恋人に限らず、家族やペット、同僚や友人など、親しい人を対象に発現しますが、たまたま愛する対象を持たない孤独な男性は“りりちゃん”の絶好の獲物です。 彼女が『ギバー』と呼んでいたお人好しの男性は純愛にハマるタイプですから、目の前で健気な薄幸の乙女が困っていれば、見返りなど求めず、つい援助の手を差し伸べてしまいます。 “りりちゃん”の『おぢ』の分類の仕方は新進気鋭の組織心理学者アダム・グラントが提唱している“人間の類型”と同じです。彼が書いた『GIVE&TAKE』は翻訳本が出ていますから、彼女はこの本を読んだのかもしれません。『ギバー』の数は決して多くないですから、夜のお仕事などを通じて出会い、SNS上のコミュニケーションを通して親しくなれさえすれば、半分は成功したようなものでしょう」 そんな「ギバーおぢ」に渡辺被告は容赦なく下記のようなLINEを送りつけている。 《きいてきいて、今起きたんだけどおぢの夢見たよ❣️一緒に犬とお散歩してた~嬉しい》 《おぢに会いたい会いたい~》 《おぢ疲れてない?何かあったら言ってね私なんでもするから》 《ディズニーいきたいな…おそろいの服きていきたいね。ペアルック❣️❣️》 「おぢ」の妄想を膨らませるだけ膨らませるが「付き合う」という言葉は一切使わない。富田氏が解説を続ける。 「“りりちゃん”はこの善人たちとの間に偽物の恋愛関係を構築することが必要になります。しかし、その具体的なプロセスは通常の恋愛を形成する過程とほぼ同じ。要となるのは“誠意溢れるコミュニケーション”です。相手からのメッセージにはできるだけクイックレスポンスして“特別な人”感を演出したり、“聞き上手”を心掛けて、相手が喜ぶような反応を返し、相手の情報はメモを取ってでも忘れないようにする、といった配慮も欠かせません」 「おぢ」️との「信頼関係構築コミット」に成功すると、ここからいよいよ「頂き」にいく。仕留めにかかるのである。マニュアルはこう指導する。 《お金の悩みをおぢに伝える時、自分の方から『実はこういうことがあってて…』と、話し始めるのではなく、本当はこんな話誰にも言いたくないし自分1人でなんとかしようとしてる。でもおぢが聞いてくるから話すことにしよう、いうていで話すことにしましょう》 《こちらからお願いして助けてもらったとなると、見返りを求められたり後からトラブルになる可能性があるからです》 悩んでいる様子を見せて、「なにかできないかな?」と言われても、最初は「嫌われたくないから話したくない」と言う。「おぢ」が資金援助を申し出ても、はじめは「自分でなんとかする」と断るのだ。「ギバーおぢ」は余計に心配になり、自らの意思で「輝く大切な存在」である「頂き女子」に貢ぐことになる――。 「あらかじめ相手に信じ込ませている“薄幸の乙女”の筋書きに沿って、あたかも自分が多額の借金の返済を迫られているかのような演技をするわけですが、カモとなっている男性が自分から聞いてくるまでは事情を説明しません。“ただ、どうしていいかわからず途方に暮れている可哀そうな乙女”を演じ続けます。SOSのシグナルだけを、それとなく発信し続けるのです。そして、相手が金銭的な援助を申し出ても、簡単には応じません。『迷惑をかけたくない』『こんなこと言うんじゃなかった』といったセリフで援助を断り、健気な乙女を演じ続ける。 恋愛感情ウンヌン以前に、人には“困った人を放っておけない”という本能が備わっています。ましてや、困っている人が自分の“愛する人”であり、“大切な人”であればなおさらです。『無償の愛』という言葉がありますが、本来、愛とは無償のものであり、見返りを求めないものなのです。 “りりちゃん”は相手が自分から行動するように巧みに仕向けています。そして相手が自発的に行動すると、心理学で言う『強化』をしています。同じ行動が続くように報酬を与える――彼女の場合、盛大な感謝をするなどの強化をおこなっています。『ギバーおぢ』は“りりちゃん”に愛情を示し、善意を実践していました。『愛の行為』は気持ちの良い快体験ですから、繰り返すうちにエスカレートし、泥沼にハマってしまうのです 」(富田氏) どうして渡辺被告は「強化」「愛の行為」という心理学的テクニックを駆使できたのか。それは彼女自身がホストにハマっていたからだと富田氏は推察する。 「“りりちゃん”はホストに貢ぐことが生きがいになっていました。貢ぐおカネを稼ぐために彼女は必死で詐欺を繰り返していたのです。愛を演じておカネを騙し取る“りりちゃん”自身が実は、自らが抱える『愛の衝動』を全面的にホストにぶつけていたわけです。こうして『愛の回収』が成立していたのだとすれば、そのホストクラブのシステム自体がある意味の詐欺と言えるのかもしれません。なぜなら本来、ビジネスや市場メカニズムによっては提供できないのが『愛』だからです。詐欺師は“売れないもの”を売るのです」 渡辺被告はマニュアルの最後に、こう締めくくっている。 「お金なんてだれにも必要ない」 取材・文:深月ユリア
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