【佐藤健】愛と共に生きる人。映画『四月になれば彼女は』監督・山田智和が切り取る素顔
さまざまな役柄を演じ、人々を魅了する俳優・佐藤健。彼の主演作で初監督を務め、写真家としても活躍する山田智和と初のフォトセッションが実現。深い愛を胸に秘めた、その素顔に迫る 【写真】佐藤健さんの写真をもっと見る 佐藤 健 1989年3月21日生まれ、埼玉県出身。A型。2006年のデビュー以降、ドラマや映画など数多くの作品に出演。「第45回日本アカデミー賞」で優秀主演男優賞を受賞。主演を務めた『四月になれば彼女は』は3月22日公開予定。
ミニマルなスタイルこそ着る人の姿を引き立てる
長い歴史を誇るテーラリングを、キム・ジョーンズがモダンにアップデートしたスーツスタイル。ドレープを描くジャケットに細身のネクタイを合わせ、ソリッドな着こなしに。あえてラフに着崩せば、センシュアルなムードが漂う。そぎ落とされた装いが、着る人の美しさを際立たせる。
シンプルだけど新しい構築的なシルエット
プラダの2024年春夏コレクションは、テーラリングにアレンジを加えたアイテムを多数展開。大きく肩の張ったグレーのジャケットは、袖のボリュームもたっぷり。対照的にウエストはタイトに引き締め、逆三角形に。着る人を端正な佇まいに導く。
リラクシングな装いで、自然に表情がほぐれる
軽やかなテクスチャーのシャツは、同じくソフトな素材のパンツと合わせてエフォートレスに。肩肘張らない着こなしがいつもよりやわらかな佐藤さんの表情を引き出す。足もとはレザーのサンダルを合わせてラフに。春らしい装いを心ゆくまで満喫したい。
佐藤健、答えのない「愛」に向き合った時間
誰もがその言葉は知っているけれど、それがどういうものかを説明するのは難しい。それが、愛というものだ。 「一言で愛と言っても、いろんな種類がありますよね。誰かを守りたいと思う気持ちは愛だと思うし、逆に愛するがゆえに人を傷つけてしまうこともある。恋人に対する感情だけが愛とも限らないですしね。友達や家族に対して抱く愛もある。人と人との間の数だけ愛の形があるのだと思います」 そう佐藤健さんは語る。最新主演映画『四月になれば彼女は』で演じたのは、精神科医の藤代俊。突然姿を消した恋人と、かつて愛した女性。二つの恋の思い出をたどりながら、藤代は愛とは何かを探し求める。 「大切なものを守るためには格好つけてなんていられないじゃないですか。だけど、僕が演じた藤代は自分を守ることを優先した結果、大切なものを手放してしまった。愛を終わらせない方法は、自分のプライドをなげうってでも必死にしがみついて離さないこと。その強い意志が大事なんだなと、演じながら思いました」 どんなに運命的な恋に落ちた二人でも、月日を重ね生活を共にしていくうちに、次第に愛は色褪せていく。愛の経年変化について佐藤さんはどんなことを思うのだろうか。 「中には愛がより増していく人もいるだろうし、それも人それぞれだとは思うんですよね。ただ、仮に愛情が落ち着いてくることがあったとしても、それと引き換えに育まれているものもきっとある。そこに目を向けることができるなら、別にいいんじゃないかなと思います」 愛とは決して恒久のものではない。ひどく繊細で、手をかけなければ花のように容易く枯れてしまう。そうわかっていながら、人は愛が続くことを当たり前のように思い、こまめな水やりを怠る。 「相手が今何を考えているのか、心の内を思いやる気持ちは、誰かと一緒にいるときに絶対に忘れてはいけないもの。でも長く共に過ごしていると、思考するのを面倒くさがってしまうんですよね。藤代はその努力を怠ったことで失敗してしまった。僕も気をつけなければいけないなと学びました」 多くの人は、愛が深まれば深まるほど、相手のことをすべてわかったように思い込む。けれど、それこそが錯覚なのだと佐藤さんは考えている。 「どれだけ一緒にいても結局は他人。人と人は本質的にはわかり合えないものだと思っています。たとえ相手を思いやる気持ちがあっても、やっぱり全部はわからない。でもそこであきらめるのではなく、わかり合えないことを前提として、気持ちを伝えることが大事なんだと思う。もし相手が自分のことを理解してくれないと思うなら、わかってよと言うだけではなく、自分から伝えることも必要。愛は一人では生まれない。二人という関係性があって初めて生まれるものだから。愛を継続するには、どちらか一方ではなく、お互いの努力が大切なんだと役を通じて学びました」 どんなものでも手にした瞬間、やがて失うときが訪れる。終わりが来ることを恐れ、相手を愛することをためらう人も現代には増えてきている。 「その気持ち自体は理解できます。でも、僕自身はそういうことを考えて踏みとどまるようなことはないです。恋愛って始まるときは始まるし、始まらないときは始まらない。自分でコントロールできるものじゃないという意識が僕のなかにはあります」 愛は制御不能だからこそ難しい。愛に溺れるあまり自分でも不可解な行動をとったり、理性のセーブがきかなかったり。そうやって何度も傷つき、心を削られながらも、人はまた恋に落ち、誰かを愛していく。なぜ人は愛を求めるのか。「佐藤さんの人生にも愛は必要ですか」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。 「必要かどうかで言うと、別に必要ではないのかな。今まで愛が必要だと思ったことはなくて。なかったらなかったで、別に楽しくやっていけるし。少なくとも愛に依存するタイプではないと思います」 決してこの答えは冷めているわけでも、愛を信じていないわけでもない。むしろその逆。常に愛を感じられる状況にいるから、とり立てて愛を欲することもないのだという。 「たぶん僕はすごく幸せ者なんですよね。ありがたいことに常に愛があふれた環境で生活をさせてもらっていて。たとえばですけど、Netflixを観ていても愛を感じるし、音楽を聴いていても愛を感じる。バラエティ番組を見ながら笑っているときに愛を感じることもあるし、道を歩いているときにふとベンチに座っているおじいちゃんを見て愛を感じることもある。日常のいろんなところに愛があふれているのを感じるから、わざわざ愛が欲しいと思うこともないのかもしれない」 佐藤さんが愛を感じる瞬間は、どれも特別なものではない。日々の至るところに転がっている、ありふれた場面だ。けれど、つい私たちは遥か遠くの景色ばかりに目を奪われ、足もとに咲いている花の美しさを見落としてしまう。大切なのは、ささやかな日常を慈しむ心だ。 「それこそ愛を向ける対象って、別に人じゃなくてもいいと思うんです。たとえば何か打ち込めるものをひとつ見つけてみる。そして自分の情熱を思い切り注いでみる。それもまた愛だと僕は思います。そうやって愛を自分から放出し続けていれば、自然と周りに愛がいっぱいあふれてくるんじゃないかと思います」 そう結んだ瞬間、クールな面差しに、やわらかな光が射した。佐藤健という人は、どこまでも愛にあふれた人だった。 『四月になれば彼女は』 精神科医の藤代俊(佐藤健)のもとに、かつての恋人・伊予田春(森七菜)から手紙が届く。時を同じくして、婚約者の坂本弥生(長澤まさみ)が突然、姿を消してしまう。現在と過去、日本と海外が交錯しながら、藤代が愛する人を探す”四月”が始まる。 SOURCE:SPUR 2024年4月号『山田智和が初めて切り取る素顔 佐藤 健 愛と共に生きる人』 photography: Tomokazu Yamada 〈Caviar〉 styling: Keisuke Yoshida hair & make-up: Toshiyasu Oki 〈CONTINUE〉 interview & text: Yoshiaki Yokogawa