今季2度目のハットトリック!なぜ横浜F・マリノスのFW前田大然はJ得点王争いのトップを独走しているのか?
2点目となったマルコス・ジュニオールのPKを巻き戻すと、スルーパスに対してペナルティーエリアを中央から右前へ、対角線上に走り込んできた前田が意表を突くヒールパスを繰り出し、ボールを受けた仲川を森重真人が倒すファウルに行き着く。 「前にいるといろいろな範囲で自由に動ける。そういった意味で、ああいう閃きとかが出てくるのかなと思っている」 スプリント回数でも異次元の数字に近い、今シーズンのJ1全体で3位に入る「55」をマーク。歴史的な大勝に貢献した前田に、マスカット監督の賛辞が続いた。ちなみに1、2位を含めて、ベスト20のうち実に「13」回にわたって前田が登場する。 「前田のベストポジションについては難しい質問だが、1トップでも右でも左でもできる柔軟性を持ったマルチな選手の一人だ。今日の彼の素晴らしいパフォーマンスが、ヨーロッパで放送されないことを祈っていると最後に言いたい」 現在はセルティックを率いる、マリノスのアンジェ・ポステコグルー前監督が冬の移籍市場で、前田の獲得を望んでいるとする報道を踏まえたジョークだった。 東京五輪の前田に限らず、森保監督はスピードと俊敏性に長けた選手を、ドリブル突破を武器にしないタイプでもサイドに配置する傾向が強い。2勝2敗と出遅れたアジア最終予選では、今夏に加入したセルティックのセンターフォワードとして、センセーショナルな活躍を演じ続ける古橋亨梧を左サイドで起用して批判を浴びた。 しかし、右の伊東純也(ヘンク)に続き、今シリーズでは三笘薫(ユニオン・サンジロワーズ)を招集。左にも待望のドリブラーを得たいま、システムが[4-2-3-1]でも[4-3-3]でも、最前線の真ん中には所属クラブで結果を残す旬な選手をすえたい。 そして、ガンバ大阪に苦杯をなめ、川崎の連覇をアシストしてから中2日で気持ちを切り替え、2002シーズンの高原直泰(ジュビロ磐田)の23歳に次ぐ若さとなる、24歳での得点王獲得へ向けて独走態勢に入った前田は古橋に続いて挑戦権を得た。 「代表とチームとは戦い方も、やることも全然違うけど、出たときには目に見える結果を残したい。ゴールを取れないと生き残れないと思っているので」 マリノスの日本人選手では、1998シーズンの城彰二氏に次いで2人目となる20ゴールに到達させた軌跡は、類稀なスピードと守備でもチームを助ける無尽蔵のスタミナに、さまざまな成長の跡が融合された証。自信と勢いをトランクに詰めて、日産スタジアムで戦った長友らとともに、前田は一夜明けた7日にベトナムへと出発する。 (文責・藤江直人/スポーツライター)