手本は世界的ブランドのルイ・ヴィトンやディオール 日本のモノづくりを支える中小製造業へのヒントがここに
由紀ホールディングスの取り組みに手応えを感じている大坪さんは、こう力を込めます。 「日本が持っているよい技術を残していくために、どうすればいいのか。いま私たちが実践している方法をひとつの解として実証したいんです。由紀精密が切削加工を軸足にしてピボットさせながら、航空宇宙分野の部品製造や医療機器分野に展開し、業績を伸ばしていったような方法論を、いろいろな会社で実現していきたいと考えています」
IoT人材の育成組織も設立
日本のものづくり文化を復活させ、継承していくために、大坪さんは、技術力のある中小製造業をたばねるホールディングス化と並行して、ものづくり産業の底上げに必要な人材育成にも力を入れています。 2020年には、中小企業のデジタル化を推進できる現場人材を育成する「ファクトリー・サイエンティスト協会」を設立し、代表理事に就任しました。発足から3年で協賛企業は60社を超え、600人以上の受講者が研修を受けました。 いま日本企業では「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の必要性が叫ばれていますが、製造業でそれがスムーズに進んでいるとはいえません。日本の競争力にかかわる問題です。
「経営者がDXをするというと、たいていIoT機器を使って従業員を監視したくなってしまうんです。 機械がどれだけ稼働しているか、サボっている人がいないかを確認するためです。そういった使い方では、現場の人たちの反発を招くだけです。こうした上司が部下を管理するための使い方ではなくて、たとえば、現場のスタッフが自ら担当する10台の機械をスマホでモニタリングするためにカメラ設置したなら問題は起きないでしょう。つまり現場の人たちが、自分たちにとって便利な使い方がわかれば、より有効に広がっていくだろう、という考え方です」 現場で働く人たちが、自分たちの作業を効率化するためにIoT機器を活用するにはどうすればいいのか。そのノウハウを伝えるために、「現場主導型のDXを体験してもらい、実践に移せる人材を増やしたい」と大坪さんは言います。