手本は世界的ブランドのルイ・ヴィトンやディオール 日本のモノづくりを支える中小製造業へのヒントがここに
由紀精密の「成功体験」をほかでも実践
大坪さんが2017年に設立した由紀ホールディングスは、ニッチだけど世界レベルで高い技術を持つ中小製造業をたばねて、大坪さんが由紀精密で得た知見を体系化した「YUKI Method(由紀メソッド)」を共有しながら、ともに成長させていくことがコンセプトです。 グループ会社の共通機能は、持ち株会社が担います。具体的には「資金調達」「事業戦略」「人財採用・HR」「企画広報・デザイン」「製品開発」「製造技術開発」「システム・IT・IoT」「営業戦略・海外展開」の機能を共有する、プラットフォーム型ホールディングスです。これによって、各社はそれぞれの個性を重視し、研究開発に集中できる環境を整えられるのです。
現在、由紀ホールディングス傘下の企業は、由紀精密を含めて9社。超硬合金を製造・加工する国産合金、マシニングセンタでの試作、プレス金型を得意とする仙北谷など、金属加工を軸にまったく異なる分野の企業が集まっています。
もっとも、「日本のものづくり企業をもっとよくしたい」と思って始めたこの新しい試みは、はじめから順調だったわけではありません。準備期間を経て実質的に事業が始まったのが2018年。そこから試行錯誤を繰り返し、ようやく軌道に乗ってきたと思えてきたのが2019年になってから。その翌年に、新型コロナウイルスが世界に大きな打撃を与えました。 「これからという時にコロナ禍になってしまったのは、本当につらかったです。由紀精密も、航空機部品の発注が次々とストップしてしまいました。グループのほかの取引先企業も、開発系の予算がストップしてしまって……」 グループ会社の中核を担う由紀精密の売り上げは4割減。しかも、コロナの影響は予想以上に長期化し、2021年の業績も思うように回復しませんでした。
経営としては苦しい日々でしたが、それでも、この期間に伸び続けた部門があったのが、わずかな光をもたらしました。電気自動車やハイブリッドカーの部品部門は堅調に成長し、小型衛星などの宇宙部門も好調。日本のお家芸である半導体製造装置も、ますます世界で必要とされていると実感しました。 コロナの影響から立ち直ることができたのは、2022年になってからです。グループ全体の売り上げは、21年度の76億5000万円から、22年度は90億円を上回る見込みとなりました。 ホールディングス化の効果として、グループ企業間のシナジーも生まれ始めました。そのひとつが、極細の「超伝導ワイヤー」の開発です。 当時、グループ会社のひとつだった明興双葉(2023年4月に株式譲渡)は、電線・ワイヤーハーネスの製造会社で、0.05ミリという髪の毛よりも細い線を連続的に加工できる技術があります。ここに国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)から線材加工に関する問い合わせがあり、共同開発がスタートしました。 さらに由紀精密の取締役社長である永松純氏は、学生時代の超電導領域の研究で国際的な科学技術誌「Nature」に論文が掲載された実績がありました。現在は、それらの知見を掛け合わせた共同開発が進められています。