「飯沼一家に謝罪します」は「幸せになりたかった人たちの顛末」。皆口大地&近藤亮太が明かす「TXQ FICTION」秘話
2024年5月に放送・配信され、大きな反響を呼んだ「イシナガキクエを探しています」に続く、「TXQ FICTION」の第2弾「飯沼一家に謝罪します」が12月23日~26日の連日深夜2時より、4日間にわたって放送され、現在Tverで配信中だ。 【写真を見る】皆口大地&近藤亮太が「TXQ」第2弾を語る PRESS HORRORでは、大森時生、寺内康太郎、皆口大地、近藤亮太の4名が引き続き結集した制作チームにインタビューを敢行し、多くの謎を投げかけた作品の狙いや、“謝罪”というモチーフに込めた真意について尋ねた。 「イシナガキクエ」の放送直後に大森×近藤、寺内×皆口のインタビューを連続掲載したが、「飯沼一家」では組み合わせを新たに、ふたたび前後編としてお届けする。前編に登場するのは、登録者数100万人を数える人気YouTubeチャンネル「ゾゾゾ」のディレクターとして知られ、24年夏の特別編として公開された「タイスペシャル」も250万再生と大反響を起こした皆口大地、「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞し、商業映画監督デビュー作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』の公開を2025年1月24日(金)に控える近藤亮太監督の2名だ。 ■「テレビで放送することに意味があるものを作りたいと思っていました」(皆口) いまから20年前の深夜に放送され、ネット上で都市伝説と化しているテレビ番組「飯沼一家に謝罪します」。その番組内容は、飯沼家という家族の4人が亡くなった事件の原因が、民俗学者の矢代誠太郎が行った“儀式”が原因だったと、本人自ら謝罪する…という奇妙な内容だった。テレビ放送の枠を買い取って放送された本番組は、当初健康雑学を紹介する番組の予定だったが、スポンサーの意向を踏まえて内容が変わったのだという。ディレクターが当時の関係者を取材するなかで、思いもよらない事実が浮かび上がってくる。 ――「TXQ FICTION」第1弾「イシナガキクエを探しています」には大きな反響がありましたが、ご自身の心境や環境に変化はありましたか。 皆口「自分の作品作りに対する気持ちという意味では、意外とそんなに変わっていないと思います。ですが、これだけ多くの方に観てもらえる機会のある作品に携われたというのは、ありがたい経験でした。普段自分が手掛けている『ゾゾゾ』『フェイクドキュメンタリー「Q」』などと比較すると、YouTubeってやっぱり能動的に観にきてもらう必要があるのに対して、テレビは点けてみたら放送されていたという偶発性があるので。ホラー好きじゃなかったり、自分たちのことをまったく知らなかったりする方が、『偶然観てみたらおもしろかったです』という。そういう広いリアクションが得られた経験から、本当にテレビというメディアの巨大さを感じました」 近藤「テレビだからこそという反響が多かったですよね。とにかく観ている人の数や幅広さが圧倒的で、これだけ世間に知られる作品に関わっていたんだなっていう」 皆口「近藤さんは演出だけではなく、番組スタッフの今野役で“出演”もされていますもんね(笑)。『飯沼一家』では出番も増えていましたね」 近藤「そうですね(笑)。大森さんも寺内監督も少しずつ出ていますけど、僕は本名で出るのが恥ずかしかったので、現場でとっさに今野と名乗ったら、そのままレギュラーキャラになってしまったという…。恥ずかしいという気持ちもあるのですが、周りから声をかけてもらうこともあって影響力におどろきました。1月に公開する映画監督デビュー作の『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』をまだ発表すらしていないタイミングで『イシナガキクエ』が放送されたので、いざ自分の映画を宣伝するとなった時に“イシナガキクエの人”と認識していただいていることも多かったです。僕にとっては、非常に大きな変化があった作品だと思います」 ――第2弾の制作はどのように進んでいったのでしょうか。 皆口「新作を作るなら、おもしろくなきゃいけないという意志は共通していましたね。『イシナガキクエ』もシンプルに“おもしろいものを作りたい”と思っていたので、今回も“おもしろい”ってなんだろうか?というすり合わせからみんなで進めていった感じです。特に自分は普段YouTubeで作品を公開しているので、どうせならテレビで放送することに意味があるものを作りたいと思っていました」 近藤「まず“『TXQ FICTION』とはどういうシリーズなのか”という定義のすり合わせをしました。『TXQ』はこうあるべきではないか、逆にこういう風にはしない方がいいんじゃないかと、各々ちょっとずつ考えが違うんですよね。そんな議論をしながら、大きなフックとなるテーマみたいなものを探っていき、それが、今回は“謝罪”という一言になりました。4人全員がこの言葉から物語を作っていける確信を持てたので、動き始めたという感じです」 ■「“公開捜索番組”という枷をなくしたことで、物語が良くなっている側面も多い」(近藤) ――「イシナガキクエ」からブラッシュアップした点や、反省点を反映したという部分はあったのでしょうか。 近藤「『イシナガキクエ』の場合は“公開捜索番組”というフォーマットにものすごく大きなパワーがあって、そういうテレビ番組に擬態する形式は結構やり切ったよね、という実感はありました」 皆口「メンバー内では『イシナガキクエ』の反省会のようなトークも繰り広げられていたのですが、ちょっと自分は不満なんですよね(笑)。自分は『イシナガキクエ』には満足していたので、踏まえるというよりもまったく違うものを作ろうという気持ちでした」 近藤「前回は、公開捜索番組という形式をとっている以上、物語を進めていくために本来必要な情報を出せないことがある…というフォーマット上の難しさがありました。例えば、生放送で個人情報を流すのは現実ならありえないよねとか。枷がなくなったという意味で、物語としては良くなっている側面も多いと感じます。ですが、『イシナガキクエ』のフォーマットが好きだったという人がいるのもうなづけます」 皆口「まさに自分は、個人的な好みで言ったら『イシナガキクエ』の方が好きなんです。でも作品の仕上がりで言うと『飯沼一家』はピカイチだと思うし、“おもしろい”という手応えがありました」 ■「たとえ『幸せ』という言葉が腐ったとしても、『幸せ』という文字は変わらない」(皆口) ――制作発表時にみなさんが出していたコメントについて伺います。近藤監督は「『罪』とは『正しくない行いをした結果として、問題にされるもの』だそうです。ぜひ、何が正しくなかったのか、を見届けてください」と書かれていましたね。 皆口「広辞苑か!(笑)」 近藤「僕がコメントを書く時にはほかの3人のものはすでにあって、最後だったのできつい“大喜利”でした(笑)。ですから、まさに辞書を引いて書いたんです。ラストまで見届けていただければ、誰が誰に対して謝らないといけない話だったのかというのはもっと明確になるはずです」 皆口「結果的に、作品を見る時のガイドになるようなコメントでしたね」 ――皆口さんのコメントは「新作はある家族の幸せがテーマです。ハートフルな物語が完成しました」ということでしたが、ここでいう“ハートフル”とはどのような意味でしょうか。 皆口「多少ひねくれた表現にはなっているかもしれないですけれど、この物語は幸せになりたかった人たちの顛末だと思っています。例えとして適当かわかりませんが、『みかん』って、腐っても『みかん』じゃないですか?だから『幸せ』という言葉が腐ったとしても、『幸せ』という文字は変わらないみたいな、皮肉めいたものを感じていました。自分は周りにあまり期待しないタイプの人間なんですけど、未来に期待しすぎると、傷ついたり、がっかりしたりすることがありますよね。今回はその究極というか、もっとも嫌な展開になってしまったというような物語だし、切なさも感じるのではないかと思います。第4話の終わり方も悲しくて、怖くて、お気に入りなんですよね。感情にあふれているという意味ではハートフルと言えるのではないでしょうか」 ――制作を終えて、「飯沼一家」の結末についてはどう感じていらっしゃいますか。 皆口「自分としては終わり方はめちゃくちゃ良いと思っているんですが、全然すっきりしないですよね。投げた謎はちゃんと全部回収しているはずですが、知らなきゃよかったなみたいな情報も出しているので、悶々とするかもしれません。自分は性格が悪いので、一人でも多くの人が、『飯沼一家』を見て暗い気持ちになってくれればいいなって思います」 近藤「人が幸せになるために排除しなきゃいけない他人の幸せというのが存在し得るという話と人の不幸がないと幸せにはなれないみたいな話が、双方に入り交じるので、そういう意味でモヤモヤするというのは間違いないと思います。モヤモヤしつつも楽しく観終わってくれればいいなと」 ――とにかく『飯沼一家』は、全体的な情報量とスピード感がすごかったですね。 皆口「そうですよね。前回の『イシナガキクエ』は各話ごとに1週間やそれ以上のスパンがありましたけど、4夜連続で良かったと思います。一気見してほしい作品です」 近藤「自分たちもちょっと混乱するぐらい構成が複雑で、“番組内番組内番組”…みたいな、入れ子構造で、言ってみれば『インセプション』みたいなことが起きているので(笑)。キャラクターも多くて複雑な話に仕上がったのはかなりおもしろいと思っています。フィクションかどうなのかもはや境界線がわからなくなるぐらいの情報量だと思うので、どんどん話が進んでいく“ドライブ感”みたいなものを楽しんでほしいなと思いますね」 取材・文/小泉雄也