“妊娠の可能性広げる選択肢”「卵子凍結」ってどんなもの? 専門医に聞く 東京都が助成スタート
■世界一の不妊治療大国
――卵子凍結は「体外受精の前倒し」ということでしたが、不妊治療ではどんな課題があるのでしょうか? 日本は“世界一の不妊治療大国”ということをご存じでしょうか。昨年、年間出生数が80万人を切りましたが、「体外受精」という不妊治療の最終段階の件数が、年間約46万件と世界一の件数となっています。 世界2位のアメリカは約33万件なので、日本は1.5倍近くの件数。20~30代の女性の人口換算でみると、アメリカの約6倍になります。ただ、アメリカと比べて体外受精を経て生まれる人数が少ないんです。アメリカでは、年間33万件の体外受精の件数に対して、約8.4万人のこどもが誕生しています。一方の46万件の日本は、誕生したこどもが約6万人と、成功率がおよそ半分なんです。 ――なぜ日本では出産に至る確率が低いのでしょうか? 日本の不妊治療の成績が悪いのは技術が悪いからかというと、そうでもないんです。日本の技術はかなり高いと言われているのに不妊治療の成績がなかなか上がらない。その原因の一つが「不妊治療を行う年齢」や「卵子の年齢」と言われています。不妊治療の開始年齢について、日本の平均年齢は約40歳なのに対して、アメリカは約34歳。またアメリカでは35歳を超えて体外受精を行う場合、若い卵子のドナーを受けて実施することも選択肢になっています。 日本では性教育が遅れているがゆえに、どのタイミングで不妊治療に入るのかわからない、妊活の開始年齢が遅くなってしまうということがあり、それによりクリニックに来るのが遅れてしまっていることが原因としてあると思います。 ――遅くスタートした上にそこで初めて知ることが多く、「もっと早く教えてほしかった!」と思うことが私自身もありました。約40歳で不妊治療スタートという点でもデータと一致しています。 性教育の遅れに加えて、不妊治療や凍結卵子を公表せずに高齢出産する著名人も多く、「現代ではアラフォーでも普通に妊娠・出産できる」と誤解されている点もあると感じます。若いうちは状態や選択肢を知らず、比較的高齢になって不妊が顕在化してから初めてクリニックに行き、何回も治療するというケースが多くみられます。 日本は性教育の後進国です。性教育の開始年齢は、世界的には5歳くらいから、プライベートゾーンや同意、ジェンダーからスタートしています。日本は早くて10歳から。内容についても、避妊に関することがメインで、性交渉についてふれられず、受精以降しか伝えていません。同意やジェンダーについてもこれまでは伝えられていなかったので、大人になって初めて知る人も多いと思います。