CIA女性スパイが「男の世界」で受けた「露骨な性差別」、アルカイダの脅威を警告もブッシュ政権は...
ビンラディン捕捉に大貢献
マンディが特に生き生きと描いているのが、国際テロ組織アルカイダを追跡するチーム「アレック・ステーション」における女性たちの活躍だ。当時、ワシントンの政官界にアルカイダを脅威だと思っている人はほとんどいなかった。 軽視され、十分な活動資金も与えられなかったこのチームが、積極的に登用したのが女性だった。責任者だったマイケル・ショイアーはマンディの取材に「女性は細かい所に目が届く。(男性が見落としがちな)情報のかけらをつなぎ合わせることができる」と答えている。 チームの女性たちはアルカイダとその創設者であるウサマ・ビンラディンに関する情報を辛抱強く拾い集めた。報告書の内容は時とともに不吉さを増していったが、ブッシュ政権は問題を先送りにしていたようだ。 2001年8月6日、CIAのアナリスト、バーバラ・スードは「ビンラディン、米本土攻撃を決断」と題する報告書を書いたが、閣僚たちが脅威について話し合うための会合を開いたのは9月4日。同時多発テロが起きたのは、その1週間後だった。 本書からは、攻撃が起きる危険性を以前から警告していた女性たちの嘆きが伝わってくる。 ある女性工作員はマンディに対し、「正しいことをしようと努めてきたのに、多くの人が死んで、それが自分のせいのように思えた。(事件は)私たちに大きな傷を残した」と語っている。怒りはビンラディン捜索への強い動機となり、その捕捉へとつながった。
猜疑心と不健全な競争は今も
本書の登場人物には、既に引退しているか亡くなっている人が少なくない。彼女たちは自らを犠牲にし、スパイという仕事に人生をささげた。この本を読みながら私は、その苦労に感情移入するとともに、自分の苦い経験を思い出していた。 初めての外国での任務の初日、私は現地の支局長に会うように言われた。彼は椅子に踏ん反り返って座り、両足をデスクの上に載せ、火の付いていない葉巻をくわえていた。 支局長は何も言わず、葉巻を指で挟んで小さく回した。私にその場でくるりと回れと指示したのだ。私は当惑しながら、そのとおりにした。彼は笑みを浮かべ、「悪くない」と言った。外見を値踏みされたのだと気付き、私はショックを受けた。 時を経て、さまざまな変化が起きたことは本書に書かれているとおりだ。今でも目に付きにくい差別や昇進の壁は残っているものの、女性職員の処遇は以前よりましになった。 マンディが触れたがらない女性たちもいる。例えば18年にCIA初の女性長官となったジーナ・ハスペル。同時多発テロ後の「高度尋問テクニック」──つまり拷問に深く関わっていた人物だ。 権力と責任の伴う地位に就いた女性たちが、男性と同様に問題を起こしたり誤った判断を下したことにも触れてほしかった。 『シスターフッド』という、女性の連帯を示す題名にも引っかかりを覚える。確かに女性たちは友情を育み、CIAという男社会で平等の実現に向けて支え合ってきた。一方で、職員同士が長年張り合ってきたのは女性も同じで、その代償は大きい。 猜疑心と不健全な競争という風土は、今もCIAに残っている。それが、アメリカの安全保障を弱体化させている。 From Foreign Policy Magazine
バレリー・プレイム(元CIA工作員)