暗号資産「税率ゼロ」で大人気のマレーシア、一方で日本は「ワースト」国に名を連ねる
物価上昇や政治など、マレーシアのリスク
シンガポールや日本と比べると割安感のあるマレーシアだが、地元住民は物価上昇の煽りを受けており、社会的な不満が高まりつつある。アジア圏では政治的に安定した国だが、投資や移住を検討する際は、いくつかのリスクがあることを念頭に置くべきだろう。 Retail Group Malaysiaは、2024年のマレーシア小売業界の成長予測を見込むものの、いくつかの懸念材料があると指摘。その中でも、最大の懸念材料となっているのが物価上昇だという。2024年3月からサービス税率が6%から8%に引き上げられたことで、小売商品やサービスの価格が上昇。食料品、日用品、自動車、旅行など、あらゆる分野の消費支出に影響が出ている。 為替変動によるリスクも無視できない。2023年以降の通貨安を受け、輸入品や輸入原材料のコストが上昇。これが物価全体を押し上げる要因となっている。 またマレーシアでは、宗教的なリスクも考慮する必要がある。同国では、イスラエルとハマスの紛争をきっかけに、親イスラエル的とみなされた欧米ブランドに対する不買運動が7カ月間続いたことで、マクドナルドやスターバックスなどの外食チェーンの業績が大きな打撃を受けた。イスラム教徒が多数を占める地域の店舗では、売上が半減するなどの深刻な影響が出ている。 日本のKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)も例外ではなく、マレーシア国内600店舗のうち100店舗以上が閉鎖に追い込まれた。KFCのフランチャイズ権を持つQSRブランズは、従業員の86%がイスラム教徒であり、筆頭株主がジョホール州政府系企業であることを顧客にアピールしたが、不買運動の沈静化にはつながっていない。 これに関連して、5月11日に実施されたクアラクブバル州議会の補欠選挙は、アンワル首相率いる与党連合の非イスラム系少数民族に対する支持率を占う意味で注目された。 結果、与党連合が勝利したが、この補選で敗北すれば、長年にわたりアンワル氏の支持基盤だった非ムスリム系少数民族の支持が揺らいでいるのではないかとの見方が広がるところだった。政治の動きにより、移民に対する対応も変化する可能性があるため、宗教・選挙動向にも注目すべきだろう。 以上のように、マレーシアには魅力的な税制や割安な物価といった投資環境の良さがある一方で、政治・社会情勢に起因するリスクも存在する。暗号通貨投資の観点からマレーシアの投資環境を評価する際には、こうしたリスクも考慮する必要があるだろう。
執筆:細谷 元