モデルライフの最後を迎えようとしているGT-Rの、最後の闘い! 日本代表、日産GT-Rニスモ・スペシャル・エディション VS 世界選抜、ポルシェ911GT3 RS
GT-Rよ永遠なれ!
2007年、大喝采とともに登場したR35型の日産GT-R。高い運動性能を持ちながら求めやすい価格で登場した国産スポーツカーは17年を経て、よりスペシャルなモデルを揃えるようになった。最もハードコアなGT-Rの意味をポルシェ911GT3 RSと比べて考えた。モータージャーナリストの渡辺敏史がリポートする。 【写真30枚】日本代表、日産GT-Rニスモ・スペシャル・エディションと世界選抜、ポルシェ911GT3 RS 2台のスーパースポーツの詳細画像を見る ◆ポルシェ944ターボ 自国内の狂信的な好景気も背景に、日本の自動車産業が世界の頂に手をかけようとしていた80年代後半、国内メーカーはこぞってスポーツカーの開発を手掛け、それが花開いた80年代末~90年代半ばにかけては百花繚乱ともいえる様相を呈することになった。スカイラインGT-R、ユーノスロードスター……と、車名を挙げるまでもなく、月替りごとの勢いで数々のモデルが世に送り出されたことは還暦手前の筆者の記憶にも鮮明だ。 しかし、スポーツカーにして世界に伍する、そして前例のない性能や個性を発揮するに至るには、開発における様々な苦労があったことは想像に難くない。そこで立ち止まった時に、標となったクルマがある。以前、この名だたるモデルたちを手掛けたエンジニアに話を聞いた際、皆々がまず挙げたモデルがポルシェの944ターボだ。 パッケージやサスペンションの考え方や、それを踏まえての安定性と敏捷性を高レベルで両立したハンドリング、更には大排気量直4エンジンの燃焼パフォーマンスといったところへの興味もさることながら、これらの要素を自分たちと同じ量産車的なプロダクトに落とし込み纏めていること。当時のエンジニアたちはそこに最も感銘を受けたという。 対すれば、当時は鋼管でスペースフレームを組み上げていたフェラーリやランボルギーニは手工芸に過ぎて、エンジニアリング的には商品に反映する術もない。或いは同じポルシェでも911については、たとえ個々のエンジニアがボディやブレーキに敬意を抱いていたとしても、リア・エンジンというトリッキーなパッケージに手を出すのは無理筋という判断だったのではないかと思う。 ◆R35型GT-R その911を傍らに据えて開発が行われたのが第三世代と呼ばれるR35型GT-Rだ。第二世代と呼ばれるR32型GT-Rは、第一世代のC10系GT-Rがそうであったように、国内モータースポーツに活躍の場を求めた。当時の花形レースであったグループA必勝の目標を掲げて開発され、そのバックボーンがチューニング文化にも大きな影響を与えている。 対して、R35型は市場のグローバル化を踏まえて世界展開を前提に、数多のライバルに伍するスーパースポーツと位置づけられる。01年の東京モーターショーに登場したコンセプト・カーからは、左ハンドル仕様というだけでなく、センターからリアにかけて盛り上がったトンネルなど、R35型へと繋がるヒントも散見された。当時このモデルを企画した日産ブランドアンバサダーの田村宏志氏は、既にエンジンを前に、ミッションを後ろに置くトランスアクスル・レイアウトの4WDを2ペダルで操らせるというアウトラインが頭の中で出来上がっていたという。 その後、開発の指揮をとった水野和敏氏は、上意下達の容易な少数精鋭の開発部隊を束ね、既存のFR車台との混流生産を実現することでコスト圧縮と高度な量産性の両立を図りつつ、性能向上のための開発に邁進する。ニュルの側にある貸しガレージに据えられた開発拠点には幾度か訪れたことがあるが、そこは時にエンジニアが泊まり込みを続けて課題に取り組む、部活の合宿のような様相を呈していた。コンプラ云々と喧しい今の日本では、こういう開発の形を採ること自体が無理筋だろう。 ◆997型911ターボ そのガレージに常に置かれていたのが、銀色の997型911ターボだ。ポルシェは959開発での知見を基に911を四駆化、89年の964型カレラ4登場以降、四駆技術の向上を究めてきた。当然ながら彼ら自身が、自らの長所でもあり短所でもあるリア・エンジン・パッケージの理想化にとって欠くことの出来ない仕事だと知ってのことだろう。結果、997型に至っては四駆性能も、GT-R開発のベンチマーク足り得るパフォーマンスを有するものに至っていたわけだ。 その結果、登場したGT-Rは、性能指標として徹底的にマークした997型911ターボを上回るパフォーマンスをノルドシュライフェのラップタイムという数値で示し、その上で半額以下の777万円からの価格を実現した。噛ませ犬となったポルシェはそのレコードに量産とは異なるタイヤを履いていると異議を唱えたが、翌年、日産はメディアの前で公開計測を行い、疑念を抱かれたレコードを更に短縮してみせた。 R35型GT-Rは欧州勢が牛耳るスーパースポーツ・カテゴリーの性能や価格的ヒエラルキーに楔を打ち込んだ。それは自分も含め、彼らに敬意を抱くクルマ好きにとっては空気の読めない行為にもみえた。が、一方で高性能の民主化を前進力としてきた日本車を知る自分の中には、してやったりという想いもあったのは間違いない。が、ラップタイム向上による価値の可視化と商品性の向上には限界があった。特に全量同等性能を掲げた当初のGT-Rのコンセプトは、速さだけでなく快適さも、或いは歴史や物語にも同意したいというカスタマーにおいてそれは必ずしもプラスには働かなかったわけだ。 そこを是正すべく14年型から登場したのがニスモだ。GT-Rの性格をGT側とR側とに二分して、Rの側にニスモを据える代わりに、GTの側となるベースモデルはより洗練された内容にすると。 折しもこの頃、ポルシェは911の展開のワイドレンジ化を進める過程で、GT3RSを定置的なグレードとして拡販する一方、ターボ系は多くのユーザーがその性能を安楽に使える、そんな全能性をより高める性格づけへ推し進めていた。GTRの変革と同調するかたちとなったのは何かの偶然だろうか。 最新のGT-Rニスモは、ノルドシュライフェのタイムを正式に計測していない。恐らくというか間違いなくというか、911GT3RSの計時となる6分49秒台は破れないだろう。バイクまがいのレスポンスとはいえ、525psの4リッター自然吸気フラット6でこのタイムを捻り出すのは、シャシーや空力の功績なしには語れない。 その空力の関係もあって、彼の地で6分台を記録するクルマとなれば、一気にその間口は偏狭だ。GT3RSは形状からして背中に漢字のポエムをびっちり縫い込んだ特攻服のような只ならなさがある。乗り味もともあれバンカラで、青信号からの発進はピットレーンからの加速を彷彿させるほどだ。乗り心地や静粛性には期待できる要素はない。それほどにスパルタンでも、軽さの中に宿るモノコックのとてつもない剛結感やバネ下の動きの精度感、猛烈なダウンフォースなどを公道の領域でも気持ちよさとして体感できる。 GT-Rニスモもその快感の源泉は似たようなところにある。同然というにはさすがに重さが強く伝わるが、そのぶん乗り心地や音的にはむしろGT3RSよりまろやかに感じられるほどだ。スペシャル・エディション用に公差を詰めた手組みの3.8リッターV6ツインターボは、沸き立つパワー&トルクのみならず、その回転フィールに透明感もみてとれる。衝突要件用以外には大きな補強も加えることなく17年を戦い抜いてきたボディは、GT3RSほどの強固さは感じずとも、凹凸を強く踏んでいった時の減衰感さえ心地よい。モノコックにそんな官能を覚えるなんて、他の日本車では体験し得ない出来事だろう。 ポルシェという唯一無二のライバルを見つめながら、GT-Rは恐らくモデルライフの最後を迎えようとしている。ADAS要件をクリアするために電子プラットフォームを全面刷新するというのはやはり非現実的だ。しかし日本のスポーツカーの歴史をも束ねる総代としての存在感には、今も些かの陰りはない。それは本当に大したことだと思う。 文=渡辺敏史 写真=茂呂幸正 ■ポルシェ911GT3 RS 駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動 全長×全幅×全高 4572×1900×1322mm ホイールベース 2457mm 車両重量 1450kg エンジン 直噴水平対向6気筒DOHC 排気量 3996cc 最高出力 525ps/8500rpm 最大トルク 465Nm/6300rpm 変速機 7段デュアルクラッチ式自動MT サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション 後 マルチリンク/コイル ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク タイヤ 前/後 275/35ZR20 335/30ZR21 車両本体価格 3134万円(撮影車両3986万円) ■日産GT-Rニスモ・スペシャル・エディション 駆動方式 縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4700×1895×1370mm ホイールベース 2780mm 車両重量 1720kg エンジン V型6気筒DOHCターボ 排気量 3799cc 最高出力 600ps/6800rpm 最大トルク 625Nm/3600~5600rpm 変速機 6段デュアルクラッチ式自動MT サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション 後 マルチリンク/コイル ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク タイヤ 前/後 255/40ZR20 285/35ZR20 車両本体価格 2915万円(撮影車両2954万6292円) (ENGINE2024年11月号)
ENGINE編集部
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