1年前は「野球を辞めようと」DeNA中川颯の“人間万事塞翁が馬”…「スタンドがキラキラしていた」初勝利→日本一「こんないい年になるなんて」
人間万事塞翁が馬
たしかに若干、支離滅裂といった感じだが、これが中川の嘘偽りのない心情なのだろう。26歳にして、心がバグるほどの強烈なコントラストを描く光と影を味わった。この現状が乱高下するような経験は、きっと今後の大きな糧になるはずだ。 「本当にそうですね。一昨年、大学の監督と食事に行ったとき『人間万事塞翁が馬』という言葉を教えてもらったんです。本当にそんな感じだなって」 不運に思えるようなことが、実は幸運に繋がったり、またその逆もしかり。不運と幸運は容易に判断がつかず、その事象において一喜一憂することはないという言葉だ。
喜びの次には必ず自戒の言葉が出る
「かつての経験があったからこそ、すごく達成感があったし、嬉しかったんです。また壁にぶつかるかもしれないけど、そういう経験を繰り返すことで、強くなっている実感もあります。しっかり自分と素直に向き合って一生懸命やっていれば、見ていてくれる人は必ずいるので、これからもごまかすことなく自分に正直にやっていきたいです」 穏やかだが決意を感じられる口調。喜びを表す一方、必ず戒めの言葉を口にする。これが中川の人間性であり、ゆえに報われてよかったと思わずにはいられない。 プロ初先発に初勝利、初ホールド、初セーブなど、初物づくしとなったプロ4年目。さまざまな役割を担いチームの勝利に貢献したが、もし後悔があるとすれば何だろうか。 「やはり先発ですかね。経験が少ないからこそ、もう少し、なにか掴みたかったですね。感覚というか。そこがわからないまま終わってしまったんで……」
手痛い洗礼を受けた先発の経験
4月4日の阪神戦(京セラドーム大阪)で、プロ初の先発マウンドに上がると、その後一旦リリーフにまわり、同30日の中日戦(バンテンリンドーム)で再び先発を務め初勝利を飾った。しかし先発3試合目の阪神戦(横浜スタジアム)では3回9失点と手痛い洗礼を受けてしまう。 「不運なヒットとかもあったんですけど、そこで流れを止めきれなかったというのもありますし、どうしていいのかわからない状況になってしまったんです。パニックというか」 先発としては初めての地元ハマスタだっただけに、受けたショックはかなり大きかった。 そして5月18日の中日戦(横浜スタジアム)、中川は改めて先発のマウンドを任されると6回2失点で試合を収め、さらに自身の1号本塁打が飛び出し、本拠地で初勝利を記録した。晴れてお立ち台に上がった中川だが、さぞかし壮観だったことだろう。
スタンドがキラキラしていた
「嬉しかったんですけど、じつは心情的には……」 中川は苦笑してつづけた。 「前の阪神戦で打ち込まれて、気持ち的にきつくて、メンタル“-80”ぐらいだったのが、あの試合で勝てて“-20”ぐらいになった感じだったんです。だからプラスではなかったんですよ。本当あのときはつらかった」 そう言いつつも中川は、口角を上げ微笑むのだ。 「メンタルがズダボロだったのもあったんで、ああやってお立ち台に上がって、ファンの方々の温かい声援が聞こえて、ありがたいなって本当感極まったというか……。何かスタンドがキラキラして見えましたよ」 〈後編につづく〉
(「ハマ街ダイアリー」石塚隆 = 文)
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