イーストウッド作品が映画会社から捨てられた訳 94歳巨匠の最後の作品をまるでバックアップせず
いずれにしても、イーストウッドの最後の作品を劇場で見られなかったとしたら、映画ファンとしては残念だろう。ただし、ヨーロッパの一部では劇場公開され、フランス、イタリア、ベルギーでは3位、スペインでは4位デビューしている。この後も、ドイツ、オーストリアなどで公開されるようである。 ところで、背景はまるで違うものの、このアワードシーズンには、別の大ベテラン監督による作品も早々にレースから消えている。ロバート・ゼメキス(72)の『Here』だ。
■トム・ハンクス主演作品にもプッシュなし 主演はトム・ハンクスとロビン・ライト。『フォレスト・ガンプ/一期一会』のチームが30年ぶりに集結するというのは、話題になった。この作品の北米配給権を持つソニー・ピクチャーズは、派手とはほど遠いものの、テレビスポットを含め、ある程度の広告をしている。 しかし、『Juror #2』と同じ11月1日に北米公開されると、480万ドルというまるでぱっとしない数字しか稼げなかったのだ。現在までの全世界興収はわずか1200万ドル。製作予算は4500万ドルなので、大赤字である。
『Juror #2』と違い、見た人の感想は芳しくなく、Rottentomatoes.comによれば、褒めている批評家は35%、観客は59%。それを受けてか、それともそれに先立って判断されていたのか、アワードに向けてのプッシュもない。ゼメキス、ハンクス、ライトにとっては無念に違いないが、この状況だと、キャンペーンをしたところであまり期待はできないだろう。 だが、作り手が最も望むのは、努力を注ぎ、時間をかけて完成させた映画を、より多くの人に見てもらうことだ。そもそも、賞にかかわることのメリットは、名前が挙がることで見てみようと思う人が増えることなのである。
そのプッシュもしてもらえなかった『Juror #2』と『Here』は、まるで煙のように消滅してしまった。イーストウッドとゼメキスにしたら、意外な体験だったはずだ。近年、業界は大きく変わってきているが、これもその象徴なのか。長年のベテランには、ついていくのが難しい時代になったのかもしれない。
猿渡 由紀 :L.A.在住映画ジャーナリスト