あのマイケル・サンデルの息子、ギネス記録を持つ“活動系”哲学者アダム・サンデルとは何者か
『これからの「正義」の話をしよう』、『実力も運のうち 能力主義は正義か?』などのベストセラーを持つ哲学者マイケル・サンデルの息子、アダム・アダット・サンデルが選んだのも、哲学者という道だった。 【画像】ハーバード大学で哲学の教鞭をとるアダム・サンデルは、インスタグラムなどでは自身のトレーニング方法をシェアしている 現在、ハーバード大学で教鞭をとりつつ、懸垂でギネス世界記録を打ち立てるなど、異色の活動を続けるアダム・サンデルに、スペイン紙「エル・ムンド」がインタビュー。父マイケル・サンデルも同席した。
哲学者と子供
ソクラテスやプラトンなど、古代の偉大な哲学者の多くは生涯、結婚もしなければ、子供を持つこともなかった。同様にホッブス、デカルト、スピノザ、ロック、ヒューム、ライプニッツ、カント、アダム・スミスなど、17世紀、18世紀の哲学者の多くも、家庭を持つこととは別の時間の使い方を好んだ。 だがアリストテレス、ルソー、マルクスは例外だ。アリストテレスは2人の妻を持ち(同時にではない)、多くの子孫を残したとされる。彼の「ニコマコス倫理学」は子供のひとりに捧げられている。ルソーは5人の子供をもうけ、その全員を孤児院に捨てた。一方、マルクスは7人の子供をもうけたが、そのうち成人に達したのはわずか3人だった。 スペインの哲学者マリーナ・ガルセスは、著書『未完の哲学』(未邦訳)のなかで、「批判的思考への専心」と「情緒的な無関心」の間にある興味深い関係を探求し、「哲学者は歴史を通して、子供を持たないのが普通で、さらに現代においては車を運転しないのも普通である」と少しユーモアも交えて記した。 そして「哲学者の人生は、普遍的な問題に捧げられた特別な人生であり、その声は普遍的な論理を求める特異な声なのである」と述べつつ、こうした偉人たちにとって、知的な努力と家庭に対する責任がいかに相容れないものだったかを明らかにする。
有名哲学者の息子の思考
ところが、アダム・アダット・サンデルとマイケル・サンデルは、あごの下に添えられた手がゆりかごを揺らしたり、オムツを替えたりすることはできない、という考えへの反論を体現している。 アダムは哲学者で、ハーバード大学社会学部の教授であり社会学者のキク・アダットと、やはり哲学者でハーバード大学教授のマイケル・サンデルの息子である。そんなアダム・アダットは、父サンデルとともにマドリードで開催された第1回「アイデア・フェスティバル」に参加し、著書『瞬間に生きる──活動するための哲学』(邦訳は2025年1月刊行予定)のスペイン語版を紹介するためスペインを訪れた。 本書のなかでこの若き哲学者は、満たされた人生は、目標を次から次へと達成し、精神的、肉体的努力を積み重ねることによって手に入れられるものではない、と主張する。 彼の考えでは、真の幸福は、それ自体で充足感のある活動に没頭することと、次の三つの具体的な美徳──「自己統制」、「友情」、「自然とのかかわり」を中心に人生を組み立てることで得られる。 しかしこれらは、現代人の目標設定への執着に取って変えられ、その結果、21世紀の「ハムスターの回し車」とも言える「努力」、「達成」、「空虚感」の絶え間ないサイクルが生じることで、セラピストの診療所が混み合う要因になっている。