「生徒よりも講師募集のほうが人が集まる」ヨガインストラクターの労働実態 #生活危機
背景にあるのは、女性へのバイアス?
ユニオンとヨギーの一件は、多くのヨガインストラクターの関心を集めた。前出の津野さんは、ヨガ業界の労働問題の背景には、市場原理だけでないバイアスがあるのではないかと指摘する。 「インストラクターの多くは女性である一方、インストラクターを管理するマネジメント職や、スタジオの経営者には男性が多い。そこで、女性はどうせ結婚するから報酬は抑えていい、お稽古の延長で資格をあげて、それで稼げなくても問題ない、という古い価値観があるのではないでしょうか。さらに、この業界に特有のことかもしれませんが、『神聖なヨガでお金をもらうのは申し訳ない』『お金よりやりがい』と考える人も少なくありません」 ヨガには特有の哲学があり、その思想に惚れ込んでいるインストラクターは多い。前出のあさみさんもその一人だ。 「子どもの頃から、“正解”に近づく教育を受けてきた中で、正解・不正解ではなく、そこにたどり着くまでの過程が大事なんだと教えてくれた」 津野さんは言う。 「ヨガ業界は今、こうした事情に甘えた構造が回らなくなり始めている。マネタイズのあり方を考え直さないといけない時期にきているのではないでしょうか」
ヨガ講師は肉体労働「女性の身体への配慮を」
経営者とインストラクター両方の視点から、ヨガ業界の働き方に問題意識を持っているのが、東京・用賀のヨガスタジオ「COCOYOGA」を経営する吉田なるさんだ。 吉田さんは、大学在学中からフリーのインストラクターとして活躍し、卒業後に専業となった。その1年後の2016年に「COCOYOGA」を立ち上げた。 「ヨガインストラクターは人気商売。人が増えて競争が激しくなるのは仕方がない。それによって質が上がるのは、お客さんにもメリットがある。とはいえ、やりたい人がたくさんいるからといって待遇を悪くすることは客もインストラクターも幸せにしない。価値を創出している現場のインストラクターには見合ったリターンを出すべきです」 今のヨガ業界は女性が多いにもかかわらず、女性が働きやすい環境になっていないと指摘する。 「肉体労働なのに、女性の健康への配慮が十分ではありません。例えば、ホットヨガで汗だくになった後に、受付に立たせてお客さんとトークをさせる。30分もしゃべっていたら、体が冷え切ってしまいます。あるいは、生理中でもそうでない時と同じように、体に負担がかかるプログラムを教えなければいけない。妊活をしながら無理をして続けている人も多いです。それだけ無理をしてしまうのは、自分の代わりはいくらでもいるという恐怖心からだと思います」 中でも警鐘を鳴らすのがホットヨガだ。吉田さんは、フリーランス時代にホットヨガを教えていたことが原因で「耳管開放症」になった。 「医師には、日常生活ではあり得ない環境で強制的に発汗したことが原因で、耳管が閉じなくなったのだと言われました。それをSNSで発信したら、『実は自分も』と、6、7人からメッセージをもらいました。それ以外の不調があったという人を入れたら13、14人。そういったリスクがあることがインストラクターにも利用客にも周知されていないんです。非常に闇が深いと思います」