「生徒よりも講師募集のほうが人が集まる」ヨガインストラクターの労働実態 #生活危機
「ヨガのレッスンの受講料は1人1回3000円程度で、この20年間変わっていません。一方で、インストラクターを養成するティーチャートレーニング(TT)は、1人契約すれば数十万円(の受講料収入)が保証される。スタジオとしてはTTをやったほうが効率がいいので、資格対応トレーニングを行うスタジオがどんどん増えて、求人に対して先生が増えすぎてしまった。ヨガ業界そのものが“資格ビジネス”で成り立ってしまっているところがあります」 コロナ禍を受けて、オンラインで完結するコースも登場した。あさみさんもRYT200を完全オンラインで取得した。授業のツールにはLINEを使う。送られてきた手本の動画を見て、自分のポーズの動画を送り、講師にフィードバックをもらう。座学・レポートと実技を合わせて合計200時間、半年かかった。費用は18万円だった。 津野さんは、今のヨガ業界は“ジリ貧”状態だと考えている。 「10年ぐらい前のウォール・ストリート・ジャーナルで、アメリカのRYT200取得者と新規にヨガを始める人の数が逆転したという記事を読んで、『この業界はこのままではまずい』と感じました。資格ビジネスが一概に悪だとは言いませんが、雇用先もないのに安易に先生を作りだしてマネタイズする方法はいずれ行き詰まるのではないかと思います」
フリーランスゆえの立場の弱さと、企業の経済活動の自由
「ヨガインストラクターは大半がフリーですが、フリーランスは立場が弱い。例えば報酬にしてもこの20年下がり続けていて、バブル期には1レッスン1万円だったようですが、今は3000円から5000円くらい。専業で食べていくのは簡単ではありません。にもかかわらず、団結して問題を訴える文化がない」 こう話すのは、フリーヨガインストラクター歴20年以上のベテラン・塙律子さん。 塙さんは、現在、ヨガ・ピラティススタジオ「スタジオ・ヨギー」を展開する株式会社ヨギーと、不当労働行為をめぐって中央労働委員会で争っている。 2004年に創業したヨギーは、日本におけるヨガブームを牽引してきた企業の一つだ。レッスンを提供するスタジオと、ヨガインストラクター養成校を展開しており、東京を中心に全国に14店舗がある。2024年2月現在、約250人のインストラクターが在籍し、ヨガインストラクターはこのうち約150人。そのほとんどが業務委託契約となる。 塙さんがヨギーと契約したのは2005年。その後、1年ごとに更新してきた。 「体だけでなく、心にもアプローチするヨギーの哲学に惚れ込み、やりがいを持ってクラスを担当してきました」 そんな塙さんだったが、2018年にヨギーから送られてきたメールを見て、経営方針に疑問を持った。メールには、「ヨギー・インスティテュート認定資格(YIC)」を有料で取得しなければ、「ヨギーヨガ」というクラスを担当できなくなる旨が書かれていた。 ヨギーヨガは、ヨギーが体系化したオリジナルプログラムのこと。ポーズ、呼吸法、瞑想などに分かれていて、スタジオで開催しているクラスの5割程度を占める。 YICは、ヨギーが2015年にスタートした独自の認定資格だ。それまでの公認ヨガインストラクター資格制度をリニューアルしたものとなるという。 2018年に通告があるまでは、YICを持っていないインストラクターも、無料の研修を受けることでこれらのクラスを担当してきた。 新たに資格を取得・更新するには、毎年自費で研修を受けて所定の「ポイント」を取得し、1年ごとに更新手数料を支払う必要がある。塙さんによれば、年間8000~5万円程度かかる計算だという。 「これは、有料講習の実質的な義務化です。本来、業務委託である私たちインストラクターにこのようなことを課してくるのはおかしい。それに、留学するなどさまざまな形でヨガの研鑽は積んでいます。講習の意義を感じなかった」