NASAが火星ヘリ「Ingenuity」最終飛行時に起きたアクシデントの調査を完了 史上初“地球外航空事故”調査
72回目の飛行で何が起きたのか?
Ingenuityは71回目の飛行(2024年1月6日)で約125秒間飛行する予定でしたが、実際には離陸から35秒後に緊急着陸しています。そのため、システムをチェックするための短時間の飛行として72回目の飛行(2024年1月18日)が計画されました。 この時、Ingenuityは高度12mまで正常に垂直上昇したものの、降下中に地球との通信を中継しているPerseveranceとの通信が途絶。通信は翌日に再確立されたものの、Ingenuityのカメラで撮影された画像は少なくともローターブレードの1つが損傷したことを示していたことから、Ingenuityはミッションを終えることになったのです。 JPLと、NASAに協力したアメリカの防衛関連企業AeroVironment(エアロバイロンメント)による調査の結果、Ingenuityのナビゲーションシステムが正確な情報を提供できなかったことがブレード損傷の原因となった可能性が最も高いと結論付けられました。 Ingenuityには機体の加速度と回転速度を測定する慣性計測装置(Inertial Measurement Unit: IMU)が搭載されていて、そのデータから推定される位置・速度・姿勢をもとに飛行制御システムが機体をコントロールします。たとえば「出発地点から北へ向かって毎秒2mの平均速度で5秒間移動した」ことがわかれば、現在地点は出発地点から北へ10m進んだ場所だと推定することができます。ただ、計測で得られたデータにはある程度の誤差が生じるため、IMUのデータから推定された値と実際の値との差は時間が経つにつれて拡大してしまいます。 そこで、Ingenuityにはカメラを備えたナビゲーションシステムも搭載されていました。ナビゲーション用のカメラは飛行中に地表のモノクロ画像を毎秒30枚撮影します。ナビゲーションシステムは画像に写っている岩や砂紋といった地表の特徴を認識し、機体の移動や姿勢変更にともなう予測位置と実際の位置の差を割り出すことで、IMUのデータをもとに算出された推定値を補正するという仕組みです。