牛窪 恵×山田昌弘×干場弓子「結婚に恋愛は必要なのか?」
地方から東京に流れる女性たち
干場》日本の少子化を止めるには、経済格差の解消しかないのでしょうか。 山田》若い人の格差をこれ以上広げないことですね。婚姻率は正社員では高く、非正規社員では低い。格差が広がり、愛情より経済事情を優先せざるを得なくなると、中国や韓国のようになってしまいます。 牛窪》現状の経済格差のほか、山田先生が問題視した「希望格差」、すなわち将来に希望を抱ける人とそうでない人に二極化した状況も深刻です。今後に希望を感じられないと、人は頑張れないですから。 山田》日本では、東京と地方の格差も大きな問題です。東京の子どもの数は実はほとんど減っていません。古い因習や性差別の残る地方よりも東京に魅力を感じた女性が集まってくるからです。一人暮らしに比べ、結婚には経済的メリットがあるので結婚・出産も増え、子どもは減らない。一方、地方、特に北東北・四国地方ではこの20年で子どもの数がおおむね半減しています。昨年のデータでは、秋田県では子どもが1人生まれると高齢者が4人亡くなっている。これは大変な危機です。 干場》地方に若い女性が残れるようにしなくては危ないですね。 山田》そうなのですが、難しいでしょう。先日はとうとう、私のゼミの女子学生が、性差別に嫌気が差して地方マスコミの内定を蹴り、カナダで就職してしまいました。 地方で調査していると、「若い女性が上司になるくらいなら、地域と一緒に滅亡したほうがマシ」と思っている中高年のおじさんだらけです。 牛窪》私もよく地方の高齢男性に睨まれます。先日も講演で「若者の価値観には学ぶべき側面も多い」と話したら、「あなたは、昭和の我々を否定するのか」と叱られました。
豊かさが子どもの数を絞らせる?
干場》韓国と日本で共通しているのが、少子化の原因が未婚化であることを政府が見逃した点です。子育てと仕事の両立支援や出産給付金など、支援は出産後のみ。結婚や子育てを後押しする経済的側面が、政策立案段階でタブー視されていたのも問題だと、先生もお書きになってますね。 山田》約30年前、低収入の男性はなかなか結婚できないと指摘したら、厚生省の官僚が、「学者はいいなあ。僕が同じことを言ったら首が飛びます」とこぼしていましたからね。 干場》日本では中流からの転落不安が強いとも書かれていますね。 山田》かつては貧しい人が多く、格差があっても将来は上向く見込みがあったから結婚できたけれど、豊かな時代に育った今の若者たちは、現状維持で精一杯。維持ができなくなるようなリスクのある結婚はしたくないのです。若い人たちはとにかくリスクを嫌いますからね。 牛窪》リーマンショックのころから「普通」に価値を感じる若者が増えた印象です。普通がいつまで続くかわからない、現状維持でいい、などは大きな不安の表れだと思います。 山田》アジアの出生率が極端に低いのは、経済的安定を求め、親と同居するパラサイト・シングルが多いのも一因です。北西ヨーロッパやアメリカ、カナダでは、成人後は親から離れて自立生活を送るのがデフォルトです。1人よりは2人で暮らすほうが経済的なので同棲するし、同棲していれば子どもが生まれる。こうして婚外子が増えるのですが、日本や韓国、イタリアのように豊かな親のもとで生活していると、なかなかそこから踏み出せない。 ただ最近、イタリアでは婚外子が増えてきたようです。イタリア研究者によると、親と同居する女性の家に男性が転がり込んでくるそうです。 牛窪》日本だけじゃないんですね! 山田》アメリカでも自立の時期が遅くなり始めたと懸念する研究者もいます。ラテン系・アフリカ系に変化はありませんが、白人・アジア系で少子化が進んでいます。豊かになるほど、豊かさを維持するために子どもの数を絞ろうとするのです。日本でも戦後、親の世代が貧しかった時期には、1世帯4人以上の子どもがいたわけですから。