「竹下派」から「福田派」支配へ 首相で振り返る平成政治 坂東太郎のよく分かる時事用語
歴代1位も視野?の安倍長期政権(平成24年~)
第1次政権での辞め方に悪印象が残る安倍首相でしたが、再登板後はむしろ前政権の失敗を糧として、慎重かつ時に大胆な運営で長期政権につなげました。 今年2月には通算での在任日数が吉田茂元首相(2616日)を抜き、戦後単独2位となりました。歴代でも4位の長さで、今年11月には歴代最長の桂太郎(2886日)を超える見込みです。 自民党の派閥の中で最大の細田派は、安倍首相の出身派閥で、竹下亘派とともに第2派閥である麻生派の麻生太郎氏は、第2次安倍政権以来、ずっと副総理兼財務相。第4派閥の岸田派の岸田文雄氏は、第2次政権で外相、その後の2017(平成29)年8月からは党政務調査会長。第5派閥の二階派の二階俊博氏は、2014年9月に党総務会長に就けた後の16年8月から党幹事長に。無派閥の菅義偉氏は第2次政権からずっと内閣官房長官を務めます。政権や党の要職を派閥の領袖に任せて動かさない。結果的に安倍氏を頂点とする寡頭制にも似た権力集中の構図が「1強」を形成しているもようです。 平成の政治史は、やはり小選挙区比例代表並立制の導入と橋本行革に代表される官邸主導が大きな特色でしょう。長く続くと思われた自民党中心の政権が2度も途切れたのは驚きです。特に民主党政権の誕生は、民意の反映より集約を重んじる小選挙区制の姿を如実に示しました。自民党も派閥の論理むき出しの政治闘争は止めています。宇野政権から第2次安倍政権まで、自民党出身の宰相10人のうち、派閥領袖は4人に過ぎません。 平成の時代の首相は、小泉政権と海部政権、橋本政権を除くと、ほぼ1年から2年の寿命です。さらに2007年からは毎年のように交替していました。かくも流動的であった権力が、第2次安倍内閣で凝結したようになったのはなぜでしょうか。野党がだらしないのは確かとしても、それを言うならば、55年体制の時代の大半は、自民党が野党に政権が渡る恐れがなく、安心して派閥抗争に明け暮れることのできた状態でした。そして今や、党内抗争すら起きません。やはり小選挙区の影響でしょう。1つの選挙区で1人しか当選できないので、何派であるかどうかより、自民党に公認されるかどうかの方が重要。最終的にその権限は首相(=自民党総裁)が持っているのです。 かつて首相の供給源であった「官僚」「東大」も大幅減。官僚経験があるのは平成の全宰相のうち宮沢氏のみ。東大出身も宮沢氏と鳩山氏の2人だけです。 平成初期は優勢であった「旧田中派→竹下派→小渕派」(現竹下亘派)の系譜が、平成12年の森首相以降、「旧福田派→森派→町村派」(現細田派)の系統に取って替わったのも注目に値します。角福戦争で負けてばかりいた「福」側の大復権です。おおむね旧竹下派は穏健で財政出動による景気拡大路線を取りがちなのに対し、旧福田派は強硬で財政再建(引き締め)路線を好みました。もっとも第2次安倍政権の経済政策「アベノミクス」は伝統的な福田派系の引き締め政策より拡大政策に寄っています。 あとは何といっても、小沢一郎氏の存在。最近も自身が率いた自由党と国民民主党の合併話をまとめるなど、野党再結集に向けた動きが伝えられます。自民党を3度目の野党へ突き落とせるのか、はたまた老兵は消えゆくのみなのか。
----------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など