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■「農場からクローゼットへ」、エシカルブランド創設
◇デニカ・リアディニ=フレッシュさん(文化遺産プロジェクト) 次に紹介したいのは、オランダのエラスムス・ロッテルダム大学を経済学者として卒業したデニカ・リアディニ=フレッシュさん。前職では、国際機関である世界銀行に勤めていたキャリアをもつ。 彼女は、いつかは起業家に、などとは考えたこともなかった。本人は「Instagram(インスタグラム)」で「nerd(オタク)」を自称するようなシャイなタイプ。まさか、自身がインドネシアのエシカル(倫理的)ファッションブランド、「Sukkha Citta(スッカチッタ)」の創設者になるとは夢にも思わなかっただろう。
■農村女性、求めているのは「公正な仕事」と知る
インドネシア語で「幸福」を意味する「スッカチッタ」。その誕生のきっかけは、彼女が開発経済学者であり世界銀行のコンサルタントとして母国インドネシアに戻り、貧困を極める農村を頻繁に訪れたときのことだ。 地元の女性たちに会い、「農村の女性たちが必要としていたのは、援助ではなく公正な仕事である」と気づいたのだ。人々が着る衣服の背後に知られざる旅があることは、大都市ジャカルタで育ったリアディニ=フレッシュさんにとってそれまで見聞きしたことのない事実だった。 インドネシアは世界最大の衣類製造国の一つだが、その縫製と繊維労働者の大多数は女性だ。 「家で働くこれらの女性たちは、中間業者を通じて労働を外注されるため、世界のファッション産業において最も疎外されたセグメントです」 縫製産業の複雑な事情と何層もの仲介業者のせいで、村の女性たちは1日に12時間働いても生活賃金を稼ぐのが困難だったという。 そこでリアディニ=フレッシュさんは起業を決意した。衣服をつくる女性が公正な生活賃金を受け取ることができ、先住民たちがもつ職人文化を継承できる社会的企業「スッカチッタ」をつくろうと。
■消費者と農村の架け橋に 女性の平均収入は60%増
彼女が考えたのは「消費者と農村職人の間に架け橋をつくる」こと。イカット(かすりの織物)、シダン(紋織物)、バティック(ろうけつ染め)、刺しゅう、天然染料というインドネシアの5つの伝統工芸を守ることを目的とし、中部ジャワ、東ジャワ、フローレス島、カリマンタン(ボルネオ)島の農村部の職人たちを支援。彼らの技術力やスキルを世界市場とつなぐことで、「農場からクローゼットへ」のサプライチェーン(供給網)を確立した。 倫理的に調達された生地を用いて伝統的技巧によって仕立てられた、スッカチッタの高品質な衣類。オウンドサイトといくつかの小売業者経由で販売され、公正な雇用を何百件も生み出し、スッカチッタで働く女性たちの収入は、以前に比べて平均60%増加した。