「ロレックス賞」2023年度受賞者、空気から安全な飲料水を抽出 ケニアで活動
■受賞者160人 選考対象は進行中または新規の挑戦
アワード創設以来、191カ国から3万7000人の応募があり、これまでに24歳から74歳まで160人の受賞者が誕生した。2年ごとの賞のたびに、医学博士、探検家、科学者、事業家、教育者など幅広い分野で活躍する、国際色も豊かな10人の選考委員が構成されてきた。 選考基準は、学術性や専門的なキャリアばかりが重要視されるわけではない。世界をよりよいものにするための先駆的なプロジェクトに挑んでいることこそが、ロレックス賞にとって大切な条件だからだ。過去の実績をたたえるのではなく、進行中または新規のプロジェクトが選考対象となる点にも、ロレックス賞の独自性が光る。
■2021年度の受賞者、タンザニアの栄養補給に貢献
過去50年近く続いてきたこのアワード。歴代の受賞者たちが手がけてきたプロジェクトを通じて、累計で何百万人もの人々が多方面に恩恵を受けてきたというから、そのインパクトは大きい。 たとえば、2021年度の受賞者の一人を見てみよう。タンザニアで栄養失調の根絶に取り組むアメリカ人社会起業家、フェリックス・ブルックス=チャーチさんだ。 彼は小麦粉にビタミンB12や亜鉛、葉酸、鉄分を計量して添加する機械「ドースファイアー」を発明し、農村部の製粉所に装備。消費者のコストを増やすことなく、栄養価の高い食料の供給を実現し、今ではタンザニア全土で1日に200万人の栄養補給に貢献している。 そろそろ2023年度の受賞者たちの話題に移ろう。2023年度は、ケニアでの衛生的な水の供給から、南米アンデス高地での森林再生活動と生態系の保護、そしてインドネシアで農村女性の貧困の連鎖を断ち切るファッションブランドまで、革新的なプロジェクトを遂行中の5人の先駆者が選出された。ここでは、応用技術と文化遺産という分野からそれぞれ選ばれた、2人の女性の活動を特に掘り下げてご紹介したい。
■ケニアに安全な飲料水を 空気から抽出し水供給
◇ベス・コイギさん(応用技術プロジェクト) コイギさんの挑戦の旅は2013年、ケニア各地の低所得世帯に向けて手頃な値段の浄水フィルターを設計し、販売する会社を立ち上げたことに始まる。 きっかけとなったのは、水源豊かなケニア中部の故郷を出て東ケニアの大学へ進んだとき、キャンパスにある水道蛇口に沈泥(ちんでい)がこびりついている様子を目の当たりにしたこと。コイギさんは思い至った。 「国土の多くが乾燥地帯で、衛生的な飲料水へのアクセスが大きな課題だと初めて気づいたのです。私は自分の水をきれいにする方法を考えなければなりませんでした」 ケニアの主要都市の水道水はダムから供給されパイプを通じて家庭に届くものの、途中で汚染され、そのまま飲むには安全でなくなってしまう。コイギさんはその現実を注視し、低コストでシンプルな浄水フィルターを自ら開発。 ところが、2016年に干ばつの影響でケニアの町は水不足に見舞われ、水道水の供給がストップ。浄水フィルターの売り上げは急落し、彼女の最初のビジネスは廃業に至った。 そうして彼女は、水問題を「『汚染問題』ではなく『欠乏問題』として」考えるようになった。そこから、ビジネスモデルの変更も検討し始めた。