「ロレックス賞」2023年度受賞者、空気から安全な飲料水を抽出 ケニアで活動
■3人の女性科学者、国境越え「水の収穫」で起業
2017年、コイギさんは米カリフォルニア州シリコンバレーのNASAリサーチパーク内にある、シンギュラリティ大学が率いる「グローバル・ソリューション・プログラム」に参加。それによって、新しい扉が開いた。 同プログラムに参加した、カナダの環境科学者アナスタシア・カシェンコと英国の経済学者クレア・シーウェルに出会い、意気投合。異なるバックグラウンドをもつ3人の女性たちは、「すべての人がきれいな飲料水にアクセスできる世界の構築」という共通のビジョンに引き寄せられた。 そして数カ月の試行錯誤を経て、彼女ら3人は互いが知り合ったのと同じ2017年に「Majik Water(マジックウオーター)」社設立まで早くもこぎつけた。 社名にある「Majik」とは、スワヒリ語で「水」を意味する「Maji」と「収穫」を意味する「Kuvuna」の頭文字「K」を組み合わせた言葉だ。マジックウオーター社は、まるで魔法のように空気から水を生成する持続可能なシステムを考案した。 コイギさんは言う。 「空気中には常にある程度の湿度が存在します。空気さえあれば、複数のデバイスを重ね合わせることで飲料水を得ることができるのです」
■動力源は太陽光 大気中から水を抽出する装置開発
マジックウオーター社が発明したのは、太陽光を動力源とする大気水生成装置(Atmospheric Water Generator /略してAWG)だ。結露を利用しながら「水を収穫する」、そのテクノロジーを簡単に説明しよう。 まず、吸入ファンによって空気が吸い込まれ、備えつけられた乾燥剤が空気中の湿気から水滴を吸着する。乾燥剤が熱にさらされることで水蒸気が放出され、冷却コイルを通じて水滴が表面に結露する。 その水はろ過され、飲用にするためにカルシウムやマグネシウムなどのミネラルが加えられる。つまり大気中から水を抽出、ろ過、ミネラル化するという一体型装置だ。
■毎月20万リットル以上の飲料水を生産、次なる挑戦も
マジックウオーター社は現在、20台の大型装置と10台の小型装置をケニアの乾燥地域に設置し、毎月20万リットル以上の飲料水を生産している。湿度がわずか30%の日でさえ、AWGは人々が飲むのに十分な水を集めることができるという。 コイギさんの次なるチャレンジは、ケニア北部にある極度の乾燥地帯へ。このエリアのアフリカ最大級の難民キャンプなどで、AWGを備え飲料水を適正価格で売る販売店「ウオーターキオスク」の立ち上げを計画しているそうだ。 最終的には、「コミュニティーが自給自足し、(地球の)温暖化に対処できるようになってほしい」とコイギさんは考えている。