平凡でも特別でも学生時代は生きづらい――尾崎世界観と花澤香菜が回想する、中高生時代の「どうにもならない日々」
嬉しすぎておなかが痛い
ふたりの会話に出てきた「どうにかなる日々」とは、志村貴子原作の漫画のアニメーション映画のことだ。それぞれの事情を抱えた登場人物たちの恋心を、淡く繊細に描いたオムニバスショートストーリー。4話で構成され、花澤は冒頭のエピソードに登場する「えっちゃん」という女性を演じている。「えっちゃん」は学生時代も、現在も女性に恋をする。また、主題歌を含め、すべての劇伴音楽をクリープハイプが担当。クリープハイプにとって初の挑戦だ。 花澤 「えっちゃん」の感情をうまくコントロールできない感じに、すごく共感しましたね。もやもやしちゃったり、電車の中でふと涙が出てしまったり。そういう気持ちになることは、今でもあるなあって。 尾崎 実は、アニメの主題歌をやらせていただくことに、けっこうコンプレックスがあって。これまで、あまりいいことがなかったんですよ。音楽を担当することで、その作品を壊す恐ろしさがやっぱりあって。でも、この『どうにかなる日々』であれば、もう一度挑戦してみたいと思えたんです。 花澤 挑戦していただいて本当によかった。主題歌の『モノマネ』はもちろん、どのシーンの曲にもすでに思い入れがあります、私。
花澤は大のクリープハイプのファンとしても知られている。実は、この取材が2人の初対面。尾崎が花澤に「寝巻にしてください」とプレゼントしたのはクリープハイプのTシャツだった。粋な計らいだ。
花澤 対談が決まって、ずっとソワソワしていました。こういうお仕事をしていても、なかなかファンである方とお会いできる機会ってないんですよね。ほんとにもう、嬉しすぎておなかが痛いっていう。クリープハイプを聴くと、歌声と気持ちがピシャーッて出てくるというか、なんて言ったらいいんでしょうか……。 尾崎 ピシャー(笑)。 花澤 もやもやした気持ちを自分では言葉にできないけど、歌に乗せてどこかに出せるような気がするんです。だから聴いているだけで胸が熱くなる。寄り添ってくれるっていうのとはまた違って、一緒に闘ってくれるような感じがするんですね。 尾崎 一緒に闘う、ああ、それはすごく嬉しい感想です。 花澤 「イノチミジカシコイセヨオトメ」という曲が特に好きで、カラオケでも絶対に歌います。20代の頃、もう仕事も恋も、何もうまくいかないというときがあって、あの曲に支えられたんです。 明日には変われるやろか 明日には笑えるやろか 花びら三枚数えたら いつかは言えるか スキキライスキ ――クリープハイプ「イノチミジカシコイセヨオトメ」 尾崎 あの歌は自分の中でも大きくて。かつて、メンバーがいなくなったときに、ひとりで弾き語りライブをやってたんです。ライブ前日に眠れなくて、ふてくされながらもギターを弾いてたら、たまたまできた曲が「イノチミジカシコイセヨオトメ」です。ふだんはゆっくりと作るんですけど、あの曲だけは歌詞もメロディーも全部そのまま出てきたんです。翌日のライブですぐに歌いました。お客さんは少なかったけれど、みんな「あれ何の曲?」「すごいいいね」って言ってくれて、そこから変われましたね。その曲で花澤さんを救えたなんて、とても嬉しいです。 花澤 今回、映画『どうにかなる日々』の音楽をクリープハイプが担当すると聞いて、「ああ、もうぴったり過ぎる!」って思いました。このお話は、いろんな人たちのちょっとモヤモヤした、なんとも言えない日常を描いてる物語。だからこそ、クリープハイプの音楽は絶対に合うと思ったんです。