巨人OBが猛批判「まず落合を切れ!」落合博満40歳が巨人1年目で四番を外された試合…代役は松井秀喜でも原辰徳でもなかった「すみません、落合さん…」
「代打・長嶋一茂」のサードゴロ
その怒りは原辰徳にまで飛び火したが、ようやく8連敗を止めた直後の9月7日の横浜戦、7回に打席に向かおうとした六番打者の原に「代打・長嶋一茂」が告げられる事件があった。若大将の凋落を象徴するシーンに東京ドームがどよめく中、右打席に入った一茂は、初球をひっかけサードゴロに倒れた。 「起用法については、どうのこうの、いいたくないよ。しょうがないだろう。代えられたことは、そりゃあ悔しいといえるけど、それ以上は、ね。まだ試合も残っているんだし、最後まで全力を尽くすよ。(中略)これ以上やってる(しゃべってる)と、変なことをいっちゃうから……」(週刊ベースボール1994年10月3日号) 原は折れかけた自尊心を自ら奮い立たせるように、翌8日のジャイアンツ球場で特打ちに志願参加して30分間、打ち込んだ。後半戦スタート直後、2試合にまたがり自身初の3打席連続アーチを記録したが、9月に入ると当たりが止まり、容赦なく背番号8に代打が告げられ、ときに送りバントを命じられた。
「すみません、落合さん…」落合が四番を外された
9月10日、首位攻防の広島戦で、ついに長嶋監督は開幕からこだわり続けた「四番落合」を中日時代の1988年以来6年ぶりに五番に下げて起用したが、代役四番に抜擢されたのは原でも、20歳の松井でもなく、選手会長の吉村禎章だった。ミスターは40歳のオレ流を監督室に呼び、「カンフル剤として今日だけお前が五番を打ってくれ。明日はまた四番に戻すから」と自ら説明する心遣いを見せたが、一方でこの試合の原は「七番三塁」で起用されている。もはや、背番号8の扱いは、力の衰えた一ベテラン選手に対するそれだった。そして、代役四番の吉村も試合前に落合に一言かけている。 「吉村はスターティングメンバーが発表される前にだれかから『今日はお前が四番だ』と知らされて、『えっ、嘘でしょう。勘弁して下さいよ』と言ったらしいよ。で、その後オレのところにきて『すみません』て。『何が? 』って聞いたら『今日、ぼくが四番なんです』って言うから、『何が“すみません”だ、馬鹿。お前、しっかり打て』と激励したんだけれどね。アイツら、本当に人がいいんだよ。ふつう言わないだろう、自分が四番に座ったからって『すみません』なんて」(激闘と挑戦/落合博満・鈴木洋史/小学館) だが、落合を五番に下げた10日は25被安打、19失点の大敗。前夜の10失点に続く投壊で、ついにゲーム差1・5に。怒りのG党の応援メガホンが東京ドームの外野席から投げ込まれたが、翌11日に「三番松井、四番落合」の形に戻すと、槙原寛己の好投で辛勝して再びマジック11が点灯する。長嶋監督はこれ以降、閉幕までその並びを崩すことはなかった。17日の阪神戦で大久保博元が涙の9号サヨナラ弾を放ち、翌18日は原の12号3ランが飛び出すなど劇的勝利もあったが、勢いに乗ることはできず、20日の敵地での広島戦からチームは再び連敗地獄の泥沼に。7まで減っていた優勝マジックも再消滅。1週間で2度の完封負けを喫する貧打は深刻で、指揮官を悩ませた。 「また同じことだが、なぜ打てないんだろう。ベンチのムードは消化ゲームのようなんだ。戦闘集団ではないんだ。西武のように、選手たちが本当の修羅場をくぐり抜けていないので、気持ちの盛り上げ方がわからないのかもしれない。しかし、ここまできてガタガタ言っても仕方がない。みんなの尻を叩いてゴールを目指すのみだ」(わが友 長嶋茂雄/深澤弘/徳間書店) 《とうとう巨人は中日に同率首位に並ばれる。そこで落合博満の“忘れられないホームラン”が飛び出すのだ。》 <続く>
(「ぶら野球」中溝康隆 = 文)
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