今年度は期間・エリアを拡大 採算確保の取り組みも 大阪・泉北ニュータウンの「AIオンデマンドバス」実証事業
採算性と認知度向上が課題
実証事業から本格運行への移行を目指す上での大きな課題は、採算をどう確保するか。前回の利用者数は合計861人、1日平均で14.4人でした。これで採算が取れていたのかどうか、南海電鉄の今中課長に尋ねると「全然取れていません。今回は6千名の利用が目標ですが、この人数に300円を掛けても180万円、運賃だけのスキームでは破綻するのが見えています」と率直に語ります。 自治体のコミュニティーバスでは、赤字分を自治体が補うケースもありますが、堺市の石﨑典和・スマートシティ担当課長は「社会実装(本格運行)の際に補助金を、という話は今の段階ではしていません」と答えました。補助金がなくなると交通サービスもなくなりかねない、という持続性への懸念が背景にあるようです。 南海電鉄の今中課長は「社会実装すればいきなり広告費が入るほど甘い世界ではないと思っています。今回はスーパーや薬局といった地域の事業者の方々に、この事業に目を向けていただけるような取り組みを進めて、社会実装時にご協賛いただけるようにしていきたい」と話します。 AIオンデマンドバスの認知度をどう高めるかも課題の1つです。堺市の石﨑担当課長は「前回は、AIオンデマンドバスを知らなかったとの意見も多かった」と振り返ります。南海電鉄の今中課長は「JCOMは自社のメディアの番組を配信しており、(配車アプリがインストールされた)スマホの操作に慣れていない人にもリーチできる強みがあります。広報面で足りない部分を補ってもらえれば」と期待。本格運行に向けては「いつまでも実証事業を続けられないので、ここ2~3年の間には何とか目鼻をつけたい」と語りました。 AIオンデマンドバスの運行赤字を、乗降場所の有償設置や乗降場所のネーミングライツ販売などの関連サービスで補う試みは、大阪市内でAIオンデマンドバスの社会実験を実施している大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)も行っています。自治体の補助に頼らずにAIオンデマンドバス事業を行う場合は、赤字が見込まれる場合にどういう手段でどう補うかが1つの課題になりそうです。こうした課題を克服して、泉北ニュータウンでAIオンデマンドバスが持続的な交通サービスになれるかどうか今後も注目したいと思います。 (取材・文:具志堅浩二)