映画監督・白石和彌が語る「時代劇の可能性」 「海外の人たちって日本の時代劇が大好きなんです」
――なるほど。物語を通じて反権力が貫かれていますね。
白石:ただ、権力側にいる奴が完全に悪いというわけではないんですよね。人というものは、そういう立場になったらそういう行動をとるということでしかないと思うんです。
時代劇の魅力
――そこは溝口に対する視線に通じるところがありますね。本作は「碁盤斬り」に続いての時代劇ですが、時代劇としての美意識にこだわった「碁盤斬り」に対して、今回は徹底的にアクションです。
白石:今回は完全なるアクション映画だと思って撮りました。ただ、最近のワイヤー使いまくりのアクションというのより、地に足が着いたアクションにしたかった。人間が持っている力を超えた動きをするのが好きではないので、泥臭い殺陣になったと思います。阪妻(阪東妻三郎)の古い映画を意識したりもしたし。
――兵士郎役の仲野太賀さんが殺陣に初挑戦されていましたが、すごい気迫でした。
白石:彼はがんばりましたよ。一番戦わないといけないし、一番剣術が強いという設定でしたからね。基本的なところから始めて4~5カ月みっちりやったんです。撮影に入ってからも空いている時間は常に殺陣を練習していました。クライマックスの殺陣のシーンは一番完成されていたと思います。
――とにかく本作の殺陣はエモーショナルで、賊軍の一人、爺っつぁん(本山力)の最後の戦いの立ち回りもすごかった。監督が爺っつぁんという役を大切にしていることが伝わってきました。
白石:アクション部のスタッフも、みんな爺っつぁんが好きなんですよ(笑)。演じてくれた本山力さんは東映剣会(東映京都撮影所所属の殺陣俳優専門の集団)で修行をしてきて東映剣会仕込みの殺陣を今に伝える数少ない一人なんです。
――東映のチャンバラ精神を受け継いだ人なんですね。
白石:三池崇史監督が「十三人の刺客」(10年)のリメイクを撮った時は、松方弘樹さんがいたんです。松方さんはスター俳優であり、殺陣のプロじゃないですか。でも、松方さんが亡くなった今、そういう存在がいないんですよ。だから、スター俳優ではないけれど本山さんにお願いしました。本山さんは脚本を読んだ時、震えたって言ってましたね。