きついノルマ、経費は自己負担――大量採用・大量脱落「生保レディ」の労働実態 #昭和98年
「ノルマが未達なら契約を作れ!」と不正を迫られ
関西に住む50代の望月薫さん(仮名)は、そうした不正の現場に遭遇した経験を持つ。入社10年の大手生保の営業職員で、「生保レディ」の世界ではベテランと言ってよい。 「年に3回もの営業査定があり、ノルマ未達で給料が下がったり、解雇されたりする規定になっていました。私は幸い、与えられた職域を開拓し、ノルマをクリアしていきましたが、同期15人のうち3年目に残っていたのは私を含めて3人だけでした」 望月さんは入社5年目で約10人の部下を指導するリーダーになった。その頃、年下の女性が営業所長として赴任し、上司となった。新卒で営業職員として採用され、優秀な営業成績を続ける“たたき上げ”だ。
月末の締め日が近づくと、望月さんらリーダーは部下の営業成績を営業所長に報告する。ノルマを達成できそうにないと、新任の営業所長は「(部下に契約を)取らさんか!」「おまえがせい!」と大きな声で怒鳴り散らした。目標が達成できなかった月には「死ね!」「無礼者!」と怒鳴り散らす。同じフロアに入居していた別の会社の人が「大丈夫ですか?」と駆け込んできたこともあるという。 望月さんによると、営業所長は「作れ!作れ!」とも言っていた。「作る」とは、「名義借り」などの不正を指す。例えば、友人に保険の申込書に記入・捺印してもらって保険契約を成立させ、毎月の保険料は営業職員自身が負担する。“自爆営業”だ。保険業法で禁止されているが、上司の“圧”に耐えかね、不正に手を染める職員もいたという。 そうした環境下で望月さんは約半年間、懸命に頑張った。それでも追い詰められ、顔面神経痛などを発症。適応障害と診断されて休職し、復帰には数カ月かかった。 「私は会社の内部通報窓口や支社長に営業所長のパワハラ行為について訴えていましたが、改善されませんでした。彼女は今もきっと、他の営業所で同じことをしているでしょう」
放置される「大量採用・大量脱落」
生保の営業職員が直面する問題について、専門家はどう見ているのだろうか。 保険コンサルタントでオフィスバトン「保険相談室」代表の後田亨さんはこう話す。 「私は1995年から日本生命で10年間働きました。同月入社の営業職員は約40人。ほとんど女性でしたが、3年後に残ったのは私ともう1人だけです。『採用してみないと成功するかどうか分からない』などと言って誰でも勧誘する姿勢は今も変わりません。歴史の長い制度なのに、会社は成功する人の共通点すら把握できていない。顧客にとっても担当者が頻繁に代わることは迷惑でしょう」