きついノルマ、経費は自己負担――大量採用・大量脱落「生保レディ」の労働実態 #昭和98年
年間4万人前後の営業職員が入れ替わる異質さ
国内の生保18社のデータを総計すると、2022年度の営業職員は約23.5万人だった。このうち女性は約21万人で全体の9割。生保の営業職員が一般に「生保レディ」と呼ばれるゆえんだ。一方、新たに営業職員になる人と辞める人は近年、ともに年間4万人前後に達しており、毎年、大量の営業職員が入れ替わる。この大量採用・大量脱落は “生保のターンオーバー(新陳代謝)”とも称される。2022年度も18社合計で約3万5000人の営業職員が新たに採用された。 生保のターンオーバーは今に始まったことではない。 戦後、対面販売網を拡大したい生保業界は、女性、とくに主婦を積極活用し、人海戦術で企業や家庭に商品を売り込んだ。高度経済成長と人口増の波に乗り、生命保険は急速に拡大。近年の世帯加入率はおよそ9割に達している。それを支えたのが「GNP」(義理・人情・プレゼント)を武器とする「生保レディ」の働きだった。
生命保険文化センターの1997年調査では、営業職員を通じて保険に加入した人の割合は約9割に上っている。保険ショップや郵便、ネットなど他の販売チャネルの台頭によって2015年以降の調査ではその割合が6割を切ったものの、依然として「生保レディ」の営業力は大きい。 一方、主婦層を中心とした女性の大量採用は、大きな歪みも生んできた。飯田さんや本橋さんのケースに見られるように「ノルマがきつい」「給与が不安定」「経費が自己負担」「自己研さんができない」というマイナスは、大量退職に直結している。
営業成績を最優先で追い求めてきたためか、近年では、営業職員による金銭詐取事件や架空契約、過剰契約なども相次いで発覚し、社会問題になっている。 例えば、2020年10月には第一生命の山口県のベテラン営業職員が、架空の投資話などで複数の顧客から合計約19億円を詐取した事件が明らかになった。同社ではその後、福岡県や埼玉県でも営業職員による金銭詐取事件が発覚。最終的には全ての契約を確認する事態に追い込まれた。また、最大手の日本生命は2022年6月、営業職員15人が総額1億3800万円の金銭を詐取していたと発表した。その後も阪神支社の元営業部長が契約者から約1億4000万円を騙し取り、詐欺罪で逮捕・起訴された事件が発覚。さらに、横浜北支社の元営業部長が本人確認書類を偽造し、約80件の契約を捏造した事実を公表している。そのほか、1家族に46件もの契約をさせていた大樹生命のケースなども明らかになった。