伊藤比呂美「中国とズンバ」
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫2匹(メイ、テイラー)と暮らす日常を綴ります。今回は「中国とズンバ」。講演ツアーのため中国に行った時のこと。夜、ズンバ講演会が開かれ大人数でやるズンバの楽しさに目覚めた伊藤さんは――(画=一ノ関圭) * * * * * * * 中国で『閉経記』の翻訳が人気なんだそうだ。それで先日、中国に行って、講演ツアーをしてきた。中でも楽しかったのは北京の夜、クラフトビールのあるイベントカフェでやったズンバ講演会。ズンバズンバズンバズンバと『閉経記』に書いてるものだから、出版社が企画してくれた。 こんな企画、去年なら、たるみ切った身体と何をするのもよっこらしょの体力で、到底できなかったろうが、今のあたしは第二期ズンバ高揚期、一週間に七回、ズンバに通ってますから、どこまででもついていける。 ビールを片手に講演をやって、それから人生相談もやって、読者たちは、日本の読者たちより若い人が多く、二十代、三十代が主で、笑い、あるいは泣き、サイン会にも辛抱強く並んでくれた。そしてその後、プロのズンバの先生が登場して、ぎゅうづめのフロアで百人(そんなに大勢が残っていてくれたのだ)の女が踊った。 あたしはズンバの先生に、前に出ろと目で指示をされ(ズンバはなるべく言葉を発しないのがルールだ)、仕方がない、恥ずかしかったけど前に出て、先生の隣で、みんなの方を向いて、踊りまくった。
百人のエネルギーが、みるみる膨れ上がっていくのが目で見えた。あたしはときどきその中につっこんでいって一人一人とハイタッチした。最高だった。 終わった後は泥みたいに疲れ果てたが、言葉のわからぬ外国に行って、読者相手に、こんなに濃厚なズンバ接待する作家が他にいるだろうかと思ったら、とっても満足して達成感もあったのであーる。 さて。ズンバの話。 いつもやってるアヤ先生のスタジオは、多くて五人、ときには一人。先生の目がすみずみまで行き届くので、終わった後に筋肉の使い方をみっちり指導してくれる。だから故障しないし、痛いところも治っていく。それでずぶずぶとハマっていったわけだが、北京のズンバで大勢でやる楽しさを思い出し、あたしは熊本で、新たなアクションを起こした。アヤ先生の教えている、別の会場の大人数のクラスに入会したのだった。 それは近所に昔からある、いろんな講座をやってるなんとかセンターで、うちの母がここにヨガを習いに通っていた。二十年も前になる。まさに今、あたしの通う道を歩いて、母が通っていたのだった。あたしとよく似た体形の七十代の女(母)がヨガのウエアを着て、毎週、この道を歩いていったんだなと思うと、すごく不思議な気分になった。