軍政権の弾圧を生き抜くミャンマー医療者、来日した著名医師が日本の市民に訴えたこと
長い戦争のなかで特徴的なのが、メンタル面での不調を訴える患者の増加だという。 「ヤンゴン市内のデータですが、親や家族の殺害、家や学校の喪失などさまざまな要因で心のケアが必要な人の割合がクーデター前は受診患者全体の16%程度だったのに対して今は61%に跳ね上がっていると言われています。 しかしメンタルヘルスの患者に対して精神ケアをできる医師は患者10万人に対して1人しかいません」(シンシアマウン氏)
同氏はミャンマー国内の食料問題にも言及した。 「徴兵により多くの若者は生まれ故郷から逃げたり、祖国を離れているため、農村に残っているのは老人や子どもだけです。彼らだけでは田畑を維持することは困難です」 十分な食料が行き渡らないため、栄養失調に苦しむ子どもたちや、食べるものがない妊婦も増えているという。低体重児や乳児の死亡率も増加しているともいう。 国境を越えた医療支援が行き届かない地域もある。シンシアマウン氏は、ミャンマー北西部のチン州を例に挙げる。
戦闘が激化しているチン州では通信規制が敷かれているため、インターネット環境が極端に悪く、連絡する手段が少ない。また、軍に知られると医療者が危険にさらされるため、支援活動の実態を公にすることは困難だという。 「5歳未満の子どもたちは医療支援が受けられないだけでなく、適切な予防接種ができていない状況が予想されます。十分な避難所や水なども与えられず、マラリア、下痢、肺炎、栄養失調、さらに戦争で死亡するリスクもあります」
シンシアマウン氏は支援の届かないチン州の現状をこう憂えた。 私は2024年2月にミャンマーに入国し、チン州を目指して隣のザガイン管区カレーミョにたどりついた。 残念ながら山岳地帯のチン州は戦闘が激しく、入ることができなかったものの、カレーミョで人口の大多数を占めるチン族の様子を目にすることができた。 食料はおそろしく高騰していた。揚げパンであるパウシーチョ1つで7500チャット(日本円で約540円)。外食で夕食を済ますとなると、あっという間に10000チャット札5~7枚が飛んでいく。クレジットカードなど他の支払い方法は政府に管理されていて使いにくいため、だれもが現金主義だ。紙幣の価値は著しく低く、現地の人たちの財布は10000チャットの束ではちきれそうになっていた。