KKRとベインの「富士ソフト争奪戦」でカギ握る不動産の評価、両雄対決の構図は必然だった
同社は本業である輸送機器製造とは別に、昭島駅周辺に広大なゴルフ場を有していた。当時の簿価は約88億円だったが、2021年2月、物流施設デベロッパーの日本GLPに推定1300億円で売却された。昭和飛行機の不動産部門を分社化して設立された昭和飛行機都市開発は、2021年3月期決算で1079億円の純利益を計上している。 不動産部門を強化したいベインは、2023年にゴールドマン・サックスで不動産部門などを率いていた木下満氏を引き入れる。同氏は今年7月、東洋経済のインタビューで「PE(プライベート・エクイティー)と不動産ファンドがワンチームになって資金を拠出する」と話していたが、富士ソフトはその象徴となる可能性がある(2024年8月1日配信 ベインキャピタル、PE投資「5年で5兆円」の本気度)。
鎌倉市内にあるビルは築39年、錦糸町のビルも築23年と、富士ソフトが持つ一部のビルは老朽化が進む。KKRのように受け皿となるREITはなくとも、改修や建て替えによって収益力を底上げする余地はありそうだ。 ■投資家は「買収合戦」を期待 ベインとKKRのどちらに軍配が上がるのか。富士ソフトは9月4日、KKRのTOBへの応募を推奨した一方、ベインから法的拘束力を有する非公開化の提案を受領すれば、「慎重かつ真摯に検討を行う」とも表明している。
KKRは5日に1株8800円でTOBを開始したが、富士ソフトの株価は9500円前後で推移する。KKRはDCF法で算定した株価の上限である9529円を突破して買い付け価格を引き上げるのか、ベインは現在提示している1株9200円を引き上げた上で法的拘束力のある提案を仕掛けるのか、両者ともに壁が立ちはだかる。 「安定的かつ高効率で収益に貢献」。富士ソフトは2022年に公表した中期経営計画において、自社ビルを保有する意義を強調していた。だが、その後は3Dに主導権を握られ、自ら築き上げた不動産ポートフォリオの解体に着手せざるをえなくなった。主体性を喪失した富士ソフトに待っていたものは、投資ファンド、アクティビスト、投資家それぞれの思惑が交錯する剥き出しの資本市場だった。
一井 純 :東洋経済 記者