経営者でもじつは「経営の本質」を誤解している…日本がもう一度豊かになるための考え方
粗にして野だが偽ではない:塗りつぶされる運命の熱血文
本書『世界は経営でできている』のいう経営の本質は、いわゆる経営者や企業人にかぎらず、現代社会に生きる人にとっての必須教養だ。だが、経営者や経営学者といった「経営で飯を食っているはずの人」でさえ経営の本質を誤解していることが多い。 これは個人と社会にとって損失である。 私自身これまで経営に何度も救われてきた。 父の会社の倒産と借金、中卒自衛官として過ごした日々、日中に働きながら高卒認定試験(旧・大検)経由での受験勉強、学生起業……。空気を読めない私が自衛隊の集団生活をやり過ごしたのも、効率的な勉強も、母子家庭における学費・生活費の調達も、父の借金の整理も、本書の出版さえも、失敗しながらも価値創造を繰り返すことで可能となった(本書を読んだ後なら確実に上手くやれたはずだが)。 だが、これ以上の苦労自慢は不要だろう。 戦後日本の焼け野原には、現代の紛争地域には、私など及びもつかない苦労をされている方々が山ほどいることを思うと、戦中・戦後を生き抜いたわけでもないまがい物の苦労話への同情を押し売りする恥知らずな真似は私にはできない。 自分なりの苦労はあった。とはいえ自衛隊、高卒認定試験、大学、会社法、出版社……といった日本の制度によって人生経営の余地が生まれたという社会への恩義があ る。死別母子家庭とはいえ母は生きている。 そうした感謝を忘れて、苦労を商売道具にする、飽食の時代に卑劣を売り歩く偽物たちと一緒になりたくない。 私は馬鹿な夢を語る。だが偽物ではない。天才的な偽物より、愚直でも本物でありたい。すべての人が経営概念を転換すれば、日本も世界ももう一度豊かになれる。そう断言できるだけの論理も本書で提示しているはずだ。 世界は経営でできている。 それに気が付かないと不条理と不合理から誰も抜け出せない。 つづく「老後の人生を「成功する人」と「失敗する人」の意外な違い」では、なぜ定年後の人生で「大きな差」が出てしまうのか、なぜ老後の人生を幸せに過ごすには「経営思考」が必要なのか、深く掘り下げる。
岩尾 俊兵(慶應義塾大学商学部准教授)