奈緒×猪狩蒼弥主演で映画化の『先生の白い嘘』。性被害を受けた男女の、性の不条理を描いた心震える作品【書評】
「両成敗」という言葉が苦手だ。事の本質を知らず、情報の上澄みだけをすくい取った他者が、まったく罪のない被害者に使っているように感じるし、ひいては「自業自得」という言葉に置き換えることが多いように感じる。
特に男女の性被害はそれが顕著ではないだろうか。たとえ加害者や世の中に訴えたとしても、なぜか「被害にあった女性はもっと拒否できただろう」「被害者の男性も思わせぶりな態度をとったのではないか」と被害者側にも「あなたも悪い」という声が届く。その声が被害者の自責の念を強め、性の不条理を助長させるとは知らずに。なぜ罪を「フェア」「平等」という言葉に近づけようとするのだろうか。 今回紹介する『先生の白い嘘』(鳥飼茜/講談社)は、そんな性被害、性の不平等を描いた作品だ。物語の主人公は原美鈴。高校教師として平穏な日を送っていた彼女だが、ある日、友人である美奈子の婚約者・早藤から性的暴力を受けてしまう。その後も早藤は、美鈴を呼び出しては性行為を強要。美鈴も「やめて」と抵抗するも、「美奈子に知られていいの?」という早藤からの脅しに逆らえず、我慢するしかない日々が続く。 また美鈴が担当するクラスの男子生徒・新妻も同じような性被害を受けていた。彼はバイト先の社長夫人から、半ば強制的にホテルに連れていかれ性行為の相手をさせられていたのだ。2人とも卑劣極まりない悪人たちによる、逆らえない立場を利用した犯罪の被害者である。 きっと、多くの読者が「なぜ警察に届けないのか」「もっと声を上げて訴えればいいのに」「男なら力ずくで振り払って逃げられたのでは?」という疑問を持つだろう。あくまで個人的な考えだが、それを実行できない最大の理由が性の不条理にある。前述したように、事の顛末をほとんど知らない他者から「被害者の女(男)も悪い」と言われる可能性や、それによって自責の念が増すことは十分に考えられる。現に美鈴は「いま自分の身に起きていることは、すべて女である自分のせいだ」と感じ、新妻も「もしかしたら、男である自分の意思でやったことなのかもしれない」と無理に自分を納得させようとする。2人とも「男女」という性の側に存在する不条理に苦しんでいるように感じるのだ。 では本当に美鈴と新妻に非はあるのか。答えはもちろんNOだろう。性被害は強要した方が悪いに決まっているし、不条理を感じる必要などない。1巻の終盤では、美鈴が新妻に対して「私は正しさを失った」という言葉から始まる独白が描かれるが、その一言一句はまさに、性被害による不条理を体感してしまった彼女の魂の叫び。男女問わず、きっと心にグッと刺さるはずだ。 確かに、作品のテーマ自体は重く感じるかもしれない。美鈴や新妻以外にも性被害や性の不平等に頭を悩ます者たちが登場するため、より一層ページを進めるのが辛くなるだろう。ただ目を背けてはいけない。性を取り巻く悪しき風潮に対してここまで踏み込んだ作品は稀有だ。ぜひ、本書をきっかけに考え直してみてほしい。 文=トヤカン