大事な人の死を語り合い、悲しみを言語化 喪失の悲嘆によりそう「グリーフケア」の現場
多死社会を迎え、誰もが一度は大事な人との死別に向き合う。ただ、亡くなった人について語り合う場は減り、悲しみを一人で抱える人は多い。そんな人たちが頼みの綱として訪れる現場を取材した。AERA 2024年12月23日号より。 【写真】ぬいぐるみを投げたり埋もれたりして、グリーフを安心安全なかたちで表現する子どもたち * * * 大学病院といえば、ひっきりなしに呼び出し音が鳴り、大勢の患者たちが待つイメージがある。だが、広島大学病院の家族・遺族ケア外来はせわしない1階とは離れた、5階の突き当たりにある。診察日は週1日。院内がバタバタする時間帯を避けて、午後2時から。フロアで待つ患者はまばらだ。 広島大学病院の精神科医、倉田明子さんはこう話す。 「ふと涙が出る人もいます。診察を待つ間に涙があふれても、他の人にジロジロ見られないように、待合室は奥まった場所にしています」 ■大変でしたねの一声 「どうぞ」と声をかけられて入った診察室は、いたって普通。椅子があって、パソコン、ベッドがある。 だが、他の科とは違って、初診のカウンセリングには約1時間かける。今の状況、そして亡くなった人との関係性、その人が亡くなるまでの経過を聞く。 大事な人を亡くした「悲嘆」のピークは数カ月から半年程度で収束することが多いとされる。 「ですが、悲嘆が1年も続いて外出できず日常生活に支障をきたしている人や、うつ病の兆候が見られる人には、医療の提供が必要です」(倉田さん) つらすぎて話せない人には、時間をかけて聞いていく。「亡くなった人のことを考えると胸がドキドキして息が苦しくなる」「考えすぎてしまう」という人には、「呼吸を一緒に整えましょう」と話しかける。腹に手を当ててゆっくり呼吸。何も考えずに呼吸に集中する。そして、体に力を入れて、緩める。自分の身体感覚に注目して、体や気持ちをコントロールする。 患者が亡くなる前の、ちょっとした声かけがグリーフケアになる。家族は緩和ケアの段階から「亡くなったらどうしよう」と予期悲嘆を抱くことがある。院内では、不安や抑うつが強い家族や、亡くなる人と結びつきが強かった人には、生前から死後を見据えたケアをするようにしている。