動物行動学のプロが”極端な怖がり”保護犬の預かりさんに。初対面で「やらなかったこと」
たとえ子犬でも「咬む」は絶対ダメ
「咬まない」ことは、今後人と暮らしていくうえで、実はとても重要です。過去に、虐待から逃れるための術だったり、咬むことで意思表示してきた子は、仕方がなかったとはいえ、新しい家族に対して、危険を及ぼすかもしれないからです。 これまで、「咬むこと」で自分の要求(それが、叩かれていた行動から逃れるためのものだったとしても)を通した体験があると、やめさせるのはかなり大変です。 嫌がることはなにもしないのだということを理解してもらいながら、絶対に咬んではいけないと、根気強く教えていく必要があります。 本来ならば、子犬のうちに「咬むことは一番いけないことなんだ」と教えたいのです。 子犬のうちは、噛む力も弱いので、咬まれてもあまり痛くありませんが、その時期から犬の将来のためには「咬んでは絶対にダメ」であることを、しっかり教えてあげてほしい。 アロイは幸い咬まない子だったので、そこはとくにケアの必要はありませんでしたが、もし咬み癖を直したい時は、皮膚に歯を当てた時に厳しく叱るようにします(ただし、体罰は絶対にダメ。大きな声を出す必要もありません)。 人以外の、たとえば家具やファブリックを咬むのは、許してあげます。歯が生えてくるときは、むずがゆくて咬むこともあるのです。咬まれては困る家具ならば、代わりに咬んでもいいものを何か与えるといいですね。 私は歯を立てられたときに、「痛い!」と鋭く声を上げます。普段は優しく声掛けしながらトレーニングしている間柄ほど、厳しい声のトーンとのギャップで、犬は「しまった」と思うものです。咬むと大好きな飼い主さんが嫌がる、という風に覚えさせるといいですね。
何を「怖がり」、なぜ「咬む」のか
保護犬の場合は、保護団体と預かりさんが連携して、トレーニングのし直しができるのが理想ですね。よく犬を観察して、様々な状況下に犬を置いて、何が原因で「怖がり」「咬みつき」「おしっこ」などをしてしまうのかを見つけないといけないので、簡単なことではありません。 それでも、原因さえ特定できれば、これまで里親に出すのが難しかった子も、申し送りをつけて里親さんに譲渡することが可能になるでしょう。 ワタデキさんには、代表の坂上さん以下、これまで犬をたくさん見て、悪い癖を直してきた経験者が何人もいて、そうした「預かりさん」ボランティアの方々とうまく回しているように思いました。 ◇はるか先生の家にやってきたアロイは、玄関の隅っこに3日間引きこもったという。その間、はるか先生と家族は、エサと水を運び、声をかけたり、時々撫でたりしながらも、アロイのやりたいようにさせておいたそうだ。自分たちからは無理に距離を縮めず、アロイが「安全と安心」を感じるまで、とにかく待ったのだ。 ただしひとつだけ、嫌がるアロイに無理矢理させたことがある。それは散歩。 アロイは元の飼い主との生活では、散歩を経験したことがほとんどなく、外を怖がって出ようとしなかった。だが、まだ3歳のアロイには、これから楽しい体験が待っているはず。そのためにも、外を散歩する喜びを教えたいと、はるか先生は、毎朝抱いてでも、外に連れ出した。 すると朝、はるか先生が近づくと、散歩に連れ出されるのではと、アロイは警戒するようになってしまったという。 後編「“怖がり保護犬”が動物行動学のプロの家に。3日間の玄関での籠城後に見せた劇的な変化」では、そんな散歩嫌いで、警戒心すら見せるアロイに、どうやって心を開かせたのか、詳しくお伝えする。
高倉 はるか(獣医師・ペットライフアドバイザー)