動物行動学のプロが”極端な怖がり”保護犬の預かりさんに。初対面で「やらなかったこと」
アプローチの仕方に優先順位がある
保護犬をうちで預かるのは初めてです。 誰にも預けられない、預け先が見つからない犬を見てほしい、と言われました。 人好きで前向きな犬は、マッチングしやすく、幸せになれる可能性が高いけど、問題行動が見られる子は特別なケアが必要になります。 極端に神経質だったり、恐怖心の強い子は、しつけたり、コマンドを教えるにしても、優先順位を考えてアプローチする必要があります。 怖がったり、信頼関係のないまま、何か教えようと思っても、犬は楽しめません。トレーニングは、犬にとって楽しいものでないと、うまくいかないのです。 保護犬猫の「預かりさん」というのは、飼い主やセンターと里親さんとの間に入って、一時的に預かる人を言います。ただ一緒に暮らすだけでなく、里親さんにつなぐ準備というか、新しい家族になじめるよう整えるというか、そういう役割も求められます。 「ワタシニデキルコト」さんでは、里親には愛情深く、理解ある家族を、預かりさんにはそれに加えて、飼育経験を求めていました。 とはいえ、咬みつき癖があったり、極端に怖がりで外に出すのもひと苦労の犬は、一般家庭で扱うのはなかなか難しい。今回私は極端に怖がりな犬を預かって、なぜそんなに怯えるのか、おびえる原因を特定し、一般家庭で飼う方法を考えようと思いました。
玄関で固まる3歳の「アロイ」
ワタデキさんに見送られてうちにやって来たのは、とても怖がりなアロイ。3歳のビーグルのミックス、女の子です。 見るもの、聞くもの、みんな怖いので、なんにもできない。玄関に入れて、「どうぞ」と声をかけても、その場でそのまま数時間固まっていました。 こういう時は、無理に何かしようとはせず、気が済むまで放っておいてあげたほうがいいと思います。家の中に、何も怖いものがないとわかれば、自分から入ってきますから。 アロイは、香川県に住む高齢女性が飼っていた犬です。10歳くらいの母犬と一緒に暮らしていたそうですが、飼い主が亡くなり、面倒を見てくれる人がいなくなりました。 見かねた近所の方が保護団体に連絡を入れて、年を取った母犬は、自分が引き取ると言ってくれたそうです。保護団体さんから「残された3歳のアロイの里親先を探してほしい」と頼まれたワタデキ代表の坂上さんが引き取りに行き、病院で検査して、健康状態を確認したうえで、うちまで連れてきてくれました。 アロイは生まれてからずっと、高齢女性と母犬と、室内だけでずっと暮らしていたようです。散歩にもほとんど行ったことがないのでしょう。とにかく音に敏感です。生活音にも慣れていません。ちょっとした物音にもびくびく、外を走る車やバイクの音にも反応します。 相当な怖がりではあるけど、性格はとても穏やかでした。なでたり、抱き上げたりしても、じっとしています。恐怖から咬むようなこともありません。 怖がりな子の中には、恐くてつい咬んでしまう子もいますが、アロイは隅のほうでぶるぶる震えて、おしっこをもらしちゃうことはあっても、攻撃性はまるでありませんでした。