産休・育休支援が広まる一方、みんなに来る更年期はなぜ保護されないのか。症状で早期退職、解雇まで…。職場で話せない雰囲気は世界でも
厚生労働省が発表した「令和5年 賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の平均賃金は男性が350.9千円、女性が262.6千円だったそう。このような状況のなか、タイムズ紙のコラムニストの経歴を持つジャーナリストのアナベル・ウィリアムズさんは、「世界経済フォーラムによれば、現在のペースだと、男女間の賃金格差を解消するためには<257年>かかる」と話します。今回は、アナベルさんの著書『女性はなぜ男性より貧しいのか?』より一部引用、再編集してお届けします。 【書影】男女間の賃金格差が生まれる根本と平等に向けた具体策に迫る。アナベル・ウィリアムズ 翻訳:田中恵理香『女性はなぜ男性より貧しいのか?』 * * * * * * * ◆更年期休暇の必要性 2019年にイギリスの労働党が更年期に配慮した政策を選挙公約に掲げて以来、更年期が女性の働く能力にどう影響するかについて議論されるようになった。 労働党は、産休の延長も要求していた。しかしながら、こうした政策はマスコミで酷評されている。 たとえば、『サンデー・タイムズ』のコラムニスト、カミラ・ロングは、女性は「たえず助けを求めているが助けてもらえない、痛ましく哀れでどうしようもないもの」だと思われるだろうと書き立てた。このような提案は「女性を子ども扱いし経済的なお荷物か犠牲者のようにしてしまう」と述べている(1)。 ここにはダブルスタンダードが見られる。妊娠に伴う合併症に苦しむ女性や産休中の女性を支援することが、女性を子ども扱いしているとか犠牲者にしているなどとは、誰も思わないだろう。 世界的に、産休を延長し充実させようという動きがある。また、カナダでは2018年に育児休暇を延長し、スカンジナビア諸国も同様の措置をとった。 子どもをもつ女性をいっそう支援する方向へと西洋文化が変わっているなら、なぜ、子どもがいなくて毎月の生理が止まったことのない女性も同じように助けようとしないのか?
◆更年期の症状に関心が払われない現状 更年期休暇の問題は、職場における年齢差別と性差別とのインターセクションだ。 更年期の症状は、身体的でもあり心理的でもある。たとえば、ホットフラッシュ、睡眠障害、動悸、頭痛、体のコリ、いらつき、情緒不安定、そしてこれらすべてに対処しなければならないというストレスがある(2)。 妊娠によってこうした症状を経験する20代の女性は同情と支援を得られるが、またたく間に30年が過ぎると、解雇を恐れ、症状を隠そうとする。 閉経期に入ると、月経の回数が少なくなり、やがて完全に止まる。閉経の平均年齢は51歳で、イギリスでは50歳以上で雇用されている女性が350万人いる。体調の変化はおおむね4年から5年続くが、12年も症状が続く女性が1割いる(3)。 すべての女性が生理痛を感じるわけではなく、すべての女性が子どもを産むとはかぎらないが、生理がある女性はみな、閉経を経験する。 しかし、職場で女性のニーズに応えようとする議論の大半は、子育ての負担に関連するもので、平等法と人事管理方針では、妊娠と出産に伴う休暇に重点をおいている。 すべての女性が経験し、何年にもわたって日々の生活に重大な影響を与える症状を伴う変化には、ほとんど関心が払われていないのだ。 更年期が女性の経済参加に及ぼす影響、つまり、仕事をするための能力や賃金水準、業務の生産性に関する影響については、あまり研究が行われてこなかった。 こうした研究がないこと自体が、女性のニーズが配慮されていないことを浮き彫りにし、更年期を経験する労働力人口の半分に対して公的な支援がほとんどないことを意味している。 世界各地から集められた数少ないデータによると、更年期症状のため労働時間を短縮したり早期退職したりする女性がいる。なかには解雇される女性もいるという。そしてその大半が、否定的な反応を受けることを恐れ、更年期の問題を上司に告げていない。 50代以上の年齢層の女性は、仕事を続けるなかですでに収入が落ちてくる時期に入っている。さらに、60歳時点で、平均的な女性は退職後に備えた貯蓄が男性の4分の1しかない。 なんとしても収入と貯蓄を増やさなければならないので、働く能力に影響するようなことは何であれ、支援を受けられるようにするべきだ(4)。
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