【暴言の文学史】「自分に頭を下げさせるヤツはみんな死ね」文豪たちの〝痛快すぎる悪口〟
■三島由紀夫と太宰治の「口喧嘩」 自分には画才もあると信じていた太宰は、高校時代には大好きだった芥川龍之介風にポーズを決めた気色悪い自画像を描くという黒歴史を残しましたし、成人後も頼まれるとポートレートを描いてやることがありました。 しかし、ある時、太宰が描いた似顔絵があまりにイヤな感じに仕上がったので、モデルになった男から苦情を入れられると、すかさず「お前は、きっと、先が長くないにちがいない」――つまり、「お前に死相が出ているから、オレの絵も気色悪くなった」と言い返しているんですね。 また、学生だったころの三島由紀夫が、「ぼくは、太宰さんの文学はきらいなんです」と太宰をいきなり面罵したことがあります。太宰は「きらいなら来なくていいじゃないか」と、即座に言い返した……とその場に同席した編集者は証言しています(ただし、三島自身の証言によると、太宰はニヤニヤしながら「そんなことを言ったって、こうして来てるんだから、やっぱり好きなんだよな。なあ、やっぱり好きなんだ」と返したそうですが)。 このように論理性がある口喧嘩などは得意な太宰なのですが、初対面から「青鯖が空に浮かんだような顔」などと予測不可能の言動で攻めたててくる中原中也のような人間は苦手だったようですね。中原を「ナメクジ」呼ばわりした太宰の真意は、「どう絡んだらいいかわからないヤツだから苦手」ということだったのでしょう。 ちなみに三島からは、太宰がまさにそういう「ナメクジ」の扱いを受けており、後には「治りたがらない病人」だと評されてしまっています。
堀江宏樹