【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】患者のオレができるグリーフケア
2024年8月5日=1,945 *がんの転移を知った2019年4月8日から起算 ▽講演会にて 先日とある講演を拝聴した。お題は「死別の悲しみを支える~当院グリーフケア外来の取り組み」。演者は、臨床心理士の川出英行(かわいでひでゆき)氏。かつての同僚である。 いま非正規雇用のわたくしが勤務するJA愛知厚生連海南病院・緩和ケア病棟で、10年以上ともに過ごした仲間だ。彼は同院の職員であり続けている。 グリーフケアとは何か。グリーフそしてケア、どちらも英単語であり、英語辞書を調べてみると―まずグリーフは「悲嘆」。そしてケアは「世話・介護・配慮・心配」などと訳語が出てくる。すなわちグリーフケアは、悲嘆を和らげる世話となる。さらにその悲嘆は死別後を指すことが多い。悲嘆の状態にある人を援助することに他ならない。 今回の講演では、2020年から同院で始まったグリーフケア外来が触れられた。わたくしの常勤時代にはなかったかったものであり、私自身その考えすら持たなかった。現在は同院緩和ケア病棟で亡くなった患者の遺族を受診対象として、カウンセリングによって遺族の歩みを支援しているそうだ。関わりによって悲嘆が和らぎ、生きる力を回復した事例も紹介された。大いに意義ある外来だと実感した。なぜならば死別後に、「もっとあれもこれもしてやればよかった、何かできることがあったろうに」と後悔に苦しむ遺族もいるからだ。 ここでふと現役がん患者である自らの行動を振返った。実践中の“わがまま”だ。私は日頃から自分は座ったままで「お茶が飲みたい」などと、家族をあごで使っている。いや、さまざまなお願いごとをしている。将来、家族に少しでも悔いが残らぬよう、「あれもしてやれた、これもしてやれている」と満足させておくことが、いまは必要なんだ。患者オレができる家族へのグリーフケア。 ただし人の価値観はさまざまであり、がん仲間でも「そうそう」と共感してくれるひともいれば、「やっぱり家族の負担になるようなわがままはやりたくない」と反論するひとまでいて、賛否両論だ。また「患者の生前からグリーフケアなど無理だ」という意見すらある。そこで講演の最後にわが行動の是非を、専門家である川出氏に質問した。 彼の返答はこうだった。「患者本人が生きているうちからでも家族(死別後は遺族となる)へのグリーフケアは可能だし、患者のわがままもええですよ」。うれしかったぁ。背中を押されたようで、さらに生きやすさの力をもらえた。 ▽ぶり返す悲嘆 実際、わが家族も私のブリーフケアのおかげで2018年の発病時よりは、随分と悲嘆は減っているようだ。ただし彼らの姿を見ていると、ちょっとした私の体調変化に今でも動揺がぶり返す。あの緊急入院から退院まで、専属秘書(編注・妻のあかねさん)は毎晩泣き通しだった。その時のように動揺するのだ。 先日も腹痛が数日ほど続いた際、彼女は私よりもはるかに落ち込んでいた。その後は痛みがどんどん強くはならず検査も受けてなく詳細は不明だが、治療中の現役がん患者。何らかの不調、時に出てくるもんや。気にし過ぎたら切りがない。自身はそう腹をくくっていても、家族はそうもいかないんだろう。思いやる気持ちが強ければ強いほど。 ▽頼る先を探す となると、いくら患者自身が生きてるうちから家族のグリーフケアをやったところで、結局は死別後に家族に悲嘆が出現して、増幅していくこともある。その場合は、臨床心理士に相談したり、医療従事者を頼ったりすることに尽きる。すなわち、「いざという時に頼れる、医療者あるいは医療機関を、家族のために探しておく」。これや! だってその時どうなるかなんて、その時でないと誰にも分からへんのやから。医療従事者のみなさん、どうぞよろしくお願いいたします。 ところでユーチューブらいぶ配信、しぶとく続けてます。チャンネル名「足し算命・大橋洋平の間」。配信日時が不定期なためご視聴しづらいとは察しますが、気ぃ向いたらお付き合いしてしてやってくださいな。ご登録も大歓迎。応援してもらえると生きる力になります。恐れながら、引き続きごひいきのほどを。 わたくし生きている限りなにとぞよろしくお願い申し上げまぁす! (発信中、フェイスブックおよびYouTubeチャンネル「足し算命・大橋洋平の間」) おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)、2022年11月「緩和ケア医 がんを生きる31の奇跡」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。 このコーナーではがん闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。