DENSOスープラ、絶妙ピットで10番手から大逆転。一時トップ3独占のZを突き放し4年ぶりの美酒【第7戦GT500決勝レポート】
前回の第6戦SUGOに続き、またしても天候不順に翻弄された2024年スーパーGT第7戦、オートポリス(AP)での3時間決勝は、実に4度ものセーフティカー(SC)出動という波乱のレースウイークを象徴するかのような大荒れの展開を経て、最後はセーフティカー先導スロー走行のままエンディングへ。序盤のオーバーテイクからラストスティントでも力強いペースを堅持した39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraの関口雄飛/中山雄一組が、後続の2台のニッサンZニスモGT500を抑えて今季初優勝を手にしている。 第5戦として8月下旬に開催だった鈴鹿サーキット戦が台風10号の影響で開催延期となって以降、実質の年間5レース目として迎えた第6戦SUGOでも、土曜の公式予選が降雨によりキャンセル。そして迎えた九州ラウンドでも、走り出しの10月19日土曜から阿蘇山麓は霧に包まれ午前の公式練習、さらに午後の予選ともに豪雨によるコンディション不良で1台も走行することなく終了した。 急きょのワンデー開催となった20日の決勝日は、朝8時からGT300、GT500クラスと双方30分間の計時予選が実施されることに。しかし引き続き濃霧に包まれたダンプ条件のトラックでは、車両バランスの確認はおろか持ち込みタイヤセットの確認も難しいような気温12度、路面温度13度と冬季コンディションと化す。 そんな環境下で最前列を射止めたのはニッサン陣営で、ヨコハマタイヤを装着する24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zが低温条件の苦手意識を払拭する同地2年ぶりのポールポジションを獲得。その隣には23号車MOTUL AUTECH Zが並んでワン・ツーを形成することに。 背後ではトヨタ陣営から58kgのサクセスウエイト(SW)を搭載した14号車ENEOS X PRIME GR Supraが続き、一時はセッションでトップ5を占拠していたホンダからは17号車Astemo CIVIC TYPE R-GT(同SW:52kg)が4番手で陣営内の最上位につける。 シリーズ全8戦中の参戦6戦目までは『フルウエイト』との競技規則も受け、今回の実質6レース目のAPラウンドは年間最多重量での戦いとなり、そのフォーマットもより耐久色の濃い、2回の義務給油を含む3時間の長丁場が同地で初めて適用される。 比較的に年間を通じた車両走行機会が少ないオートポリスの路面は、タイヤへの攻撃性が高いことでも知られる。週末の流れを含め戦略面でも“未知の要素”が満載のレースになることが予想された。 詰め込まれた変則タイムスケジュールにより、慌ただしく過ぎたピットウォークを経て、11時30分より予定された決勝前のウォームアップ走行も、定例の20分から40分へと走行枠が拡大されることに。ここでは相対的にSWが軽量な16号車ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT(SW:32kg)を先頭に、39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supra(SW:38kg)のトップ2に、ランキング5番手でタイトル戦線に踏み留まりたい3号車Niterra MOTUL Z(SW:70kg)が続いた。 ⚫︎オープニングラップから、上位陣はバトルを展開 13時20分の決勝スタートを前に気温はまだ14度。一方の路面温度こそ、日差しのおかげで21度まで上昇したものの、引き続き肌寒い条件でパレード&フォーメーションラップを迎える。 ポールシッターの24号車リアライズ松田次生は順当にホールショットを決めたものの、2番手の23号車MOTUL AUTECH千代勝正は、一旦は背後の14号車ENEOS X PRIME福住仁嶺に先行を許すことに。しかし続く2周目にはポジションを奪還、ここからZニスモGT500のワン・ツー態勢を維持していく。 さらにGT300の隊列が早くも出現した6周目には、ホームストレートで並走した17号車Astemoの塚越広大が14号車ENEOSをパスして3番手に進出。その前方ではしばらくこう着状態が続いたのち、12周目に0.400秒差で突入していたZ艦隊は背後の千代が第2へアピンで松田のインに飛び込み首位交代となり、そのまま一気に引き離しに掛かる。 一方で3号車Niterraは持ち込みタイヤと路面温度のマッチングが苦しいか、13周目には39号車DENSOの関口雄飛に。続く16周目からは100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GT、続くラップで38号車KeePer CERUMO GR Supraにと立て続けにオーバーテイクを許し、ジリジリとポジションを失っていく。 その39号車DENSO関口は、勢いそのままに100号車STANLEY牧野任祐とともに16号車ARTA佐藤蓮に襲い掛かり、三つ巴からの19周目には一気にパッシング。これで5番手とすると、続く21周目には14号車ENEOSも仕留めて4番手にまで進出する。 レース時間40分を前にした23周目には、19号車WedsSport ADVAN GR Supraがトラブルからか白煙を上げて第1ヘアピンを直進し、グラベルにストップ。ここで最初のFCY(フルコースイエロー)が発動する。 すると最後尾にいた8号車ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GTが、無線トラブルかピットレーンクローズの場面で作業エリアに飛び込んでしまい、この時点でペナルティが確実な情勢となる(43周目に60秒のペナルティストップが宣告)。直後、コースサイドに停止した19号車の回収に時間を要するためここでセーフティカー(SC)に切り替わると、この時点で2番手にフタ桁までギャップを築いていた首位23号車のマージンは消失することに。 その後、29周目突入でレースがリスタートを迎えると、レース時間もちょうど1時間を迎えようかというタイミングとも重なり、ここで5番手にいた14号車ENEOSと、10番手まで後退していた3号車Niterra、そして12番手にいた12号車MARELLI IMPUL Zの3台がルーティン作業へ向かう。 ここで福住から大嶋和也にスイッチした14号車に対し3号車Niterraが先にピット出口へ。同じく平峰一貴からベルトラン・バゲットにシートを引き継いだ12号車MARELLIに対してはファストレーンで先行される状況となり、トップ5にいた14号車は大きくポジションを落としてしまう。 その後も数周おきに2台ずつの作業が続き、首位の24号車リアライズは35周目に39号車DENSO、そして選手権首位を行く36号車au TOM’S GR Supra(SW:98kg)と同時にピットへ。これに上位陣も反応し、続くラップで17号車Astemo、100号車STANLEYがピットイン。ともに作業静止時間43.7秒、44.4秒で太田格之進、山本尚貴にそれぞれドライバースイッチを行っていく。 ■一時はワン・ツー・スリー、崩れたニッサンZの牙城 暫定首位浮上の16号車が37周目に最後のルーティンを終えると、首位23号車MOTUL千代の背後には迅速な作業も奏功したか、苦しんでいた3号車Niterraの高星明誠と12号車MARELLIがジャンプアップ。さらに36号車auも坪井翔からステアリングを引き継いだ山下健太がアンダーカットを成功させ、燃料流量リストリクター最大の3ランクダウンとなるクルマでトップ10圏外から4番手まで躍進してみせる。 するとその直後。コース上で14号車ENEOSの大嶋にサイド・バイ・サイドを仕掛けた17号車Astemoの太田は、右のターン7からターン8の100R進入アウト側へノーズを差し込み、14号車ENEOSのラインと交錯するかたちで行き場を失い、押し出されるようにしてコースオフ。クラッシュを喫し、ここでレースを終えてしまう(後に14号車ENEOSにドライビングスルーペナルティ)。 これですぐさま2回目のSCが発動し、ストレートでの隊列整理を経て43周目突入で仕切り直しになると、首位の23号車千代が続く44周目で1分35秒832と、ここでファステストを更新。ニッサン艦隊のワン・ツー・スリー態勢を率いていく。 ⚫︎レース終盤になってもトラブル、アクシデントが続きセーフティカー導入 折り返しの1時間半を過ぎて周回数も50を超えてくると、2番手以下の距離が近づき団子状態へ。ここで5番手にいた39号車DENSOの中山雄一が陣営内の36号車auを捉え4番手へ。そのままニッサン陣営の牙城を伺う一方、接触の審議が続いていた14号車ENEOSにはドライブスルーの裁定が下る。 フィニッシュまで残り1時間が近づき最後のウインドウが開くと、58周目の64号車Modulo CIVIC TYPE R-GTからルーティン作業が始まり、上位勢では61周突入で首位の23号車から12号車、100号車が同時にピットへ。ここで100号車STANLEY山本のダブルスティントとした100号車は29.2秒の静止時間でふたたび平峰に乗り換わった12号車を鮮やかに出し抜いていく。 続く63周目突入で暫定首位3号車Niterraと、同じく39号車DENSOがピットレーンへ向かった直後、いち早く最終スティントに出ていた64号車Moduloの伊沢拓也がターン3で正面からバリアに激突。この日、3回目のSC導入となる。 このタイミングで作業を終えた39号車DENSOがニッサン陣営を逆転してピットを後にし、これでロニー・クインタレッリにスイッチした23号車の前に出て首位浮上へ。同じく100号車も3号車を上回り、この時点で未消化組首位の36号車au以下、義務ピットを終えていない車両は好機を逸する展開へと変わっていく。 残り50分を切り68周目突入でリスタートが切られると、未消化組では37号車Deloitte TOM’S GR Supraを除く4台が一斉に義務ピットへ。続くラップで37号車の笹原右京が最後のルーティンを終えると、背後でNISMO/NMC艦隊とのバトルを繰り広げる100号車STANLEYのパックに対し、先頭の39号車DENSOがジリジリと逃げを打つ。 ラップ数にして78周でレースは残り30分。長らく燃リス3段階ダウンのハンデを抱えながら、背後の3号車Niterra三宅淳詞を抑え込んできた100号車の山本だったが、15分を切った86周目のホームストレートでピタリとテール・トゥ・ノーズに持ち込まれると、やはりパワーダウンの足枷は如何ともし難いか、ターン1のアウト側からついにオーバーテイクを許し、表彰台圏内から陥落。 するとその直後、第2ヘアピン進入でGT300車両がトラブルから速度を殺せぬままクラッシュを喫し、ここでFCYから4回目のSCへと発展する。 このピリオド中に再開なるかと91周目に再度のリグループを経た段階で残り5分、最後のスプリント勝負へと思われたが、ここで24号車リアライズが最終コーナーでマシンを止め、さらに先導走行が延長されることに。 隊列がスロー走行のまま92周目を周回中に3時間のタイムアップを迎え、ここで荒れに荒れた週末が決着。23号車と3号車のNISMO/NMC艦隊に逆襲のチャンスは訪れず、39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraが2020年第5戦富士以来となる、4年ぶりのトップチェッカーをくぐることとなった。 [オートスポーツweb 2024年10月20日]