意外と知らない、これから日本で「賃金上昇」していく「当然の理由」
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 【写真】いまさら聞けない日本経済「10の大変化」の全貌… なぜ給料は上がり始めたのか、経済低迷の意外な主因、人件費高騰がインフレを引き起こす、人手不足の最先端をゆく地方の実態、医療・介護が最大の産業になる日、労働参加率は主要国で最高水準に、「失われた30年」からの大転換…… 発売即重版が決まった話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
予想2 賃金はさらに上昇へ
人手不足という言葉は裏をかえせば、企業側の言い値の給与や労働時間で働いてくれる労働者がいなくなってしまったということを意味している。そう考えれば、人手不足の労働市場で人手を確保するためには、企業はこれまでと同じ労働時間であれば給与の水準を引き上げなければならない。あるいは同じ給与水準であれば労働時間を縮減しなければならない。人手を確保するためには、賃金水準を継続的に引き上げるよりほかに方法はなくなるだろう。 現時点において、すべての経営者がこうした労働市場の環境変化に対応できているかと言えば、そうではない。たとえば、パーソル総合研究所が2022年に行った「賃金に関する調査」では、企業の経営層530人に賃上げに対する考え方を聞いている(図表3-2)。 この調査では、賃上げに対する考え方として「会社の成長なくして賃上げは難しい」と「賃上げなくして会社の成長は難しい」のどちらの考え方が自身の考えに近いかを聞いているが、前者に近いと答えた経営者が63.0%と多く、後者に近いと答えた人は6.4%しかいなかった。同調査は、賃金に関する企業経営者のスタンスを浮かび上がらせている。賃金水準の最終的な決定権を持つのは経営者であるが、企業経営者の多くは労働者の生産性向上が実現しなければ賃金は上げられないと考えている(なお、本調査では成長したら実際に賃上げするかは聞いていない)。 しかし、これからの労働市場においては、このような旧来の経営の考え方は許されなくなる。将来の日本の労働市場では、人口減少が本格化していくなかで、自社の利益水準にかかわらず賃金水準を先行的に引き上げて従業員を確保するように、労働市場が企業に強い圧力をかける。そこに気づいた先見性のある企業は、自社の発展のため、先行者利益を確保するために我先にと賃金を引き上げ、優秀な人手を囲い込もうとするだろう。 実際に、日本の労働市場をみると、そのような動きは少しずつ顕在化してきている。賃上げをしないと人材獲得競争に競り負けるという危機感が同業他社の経営層に波及していけば、企業間で賃上げ競争が起き、労働市場全体としての賃金上昇の動きはますます広がっていくことになる。 そうなれば、これからの日本経済においては、多くの人が予想する以上に賃金が力強くかつ自律的に上がっていく局面を経験することになるはずだ。日本の人口動態を前提とすれば、将来にわたって労働市場の需給はタイトな状況を続ける可能性が高い。そうなれば、労働力はますます希少なものとなり、賃金は名実ともに上昇に向かうだろう。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)