希少な「黒いトラ」の撮影に成功、手がかりは「トラなのに!?」という意外なにおいだった
非常に用心深いインドの“ブラックタイガー”、「2024 写真が記録した1年」撮影秘話
写真家で分子生物学者でもあるプラセンジート・ヤダブ氏は、擬似黒色症の野生の「ブラックタイガー」を撮影しようと、インド東部にあるシミリパル・トラ保護区に向かった。このトラは非常に用心深く、保護区内にある村に長年住んでいる住民ですら、一度も見たことがない人がほとんどだ。 ギャラリー:「2024 写真が記録した1年」 写真21点 ヤダブ氏は地元の森林局の力を借りて、10頭ほどのトラをよく見かけるという小道へ向かった。そこでトラが縄張りをマーキングする証拠を探すため、木のにおいをかぎはじめた。 「トラがつけるにおいは独特です。ここ、インドで手に入るバスマティ米のようなにおいです。刺激臭の強さで、どのくらい前のものかわかります。 ときどき『当たり』が出ます。数日前にトラがいたということです。その木は狙い目です」 カメラトラップ(自動撮影装置)を設置する場所を探し、仕掛けをテストしたら(代役としてトラになりきることもある)、あとはひたすら調整作業が続く。天気やほかの動物に、頻繁に邪魔されるからだ。 好奇心旺盛なのは、ヒョウやサルだ。「やってきてフラッシュの向きを変えたり、機器を作動させて逃げていったりします」 そして60日後。カメラは数回ブラックタイガーの姿をとらえていた。そのうち数枚には全身が写っていた。 カメラを警戒していないように見えたのは、若いメスのトラだけだった。 ヤダブ氏は再撮影に挑戦したいと思っている。しかし、雨期で道が消えてしまったので、また一からやり直しになる。 「思い描いている写真はまだ撮れていません。それを撮りに行きますよ」
文=Heidi Schultz/訳=鈴木和博