<ルポ・ニューヨーク進出の獺祭>新たな食文化の発信へ、合理化の真逆をいく酒造りとは
データの見える化で進化を続ける
獺祭といえば、杜氏をなくし、四季醸造をするということで知られている。ここから、徹底した「機械化」や「合理化」した酒造メーカーというイメージを持たれることがあるが、そうではない。 「例えば、IoTを導入してデータを積み上げていくということをするつもりはありません。データが多くなればなるほど、そのデータを解析するということをいろいろな方にお勧めされますし、実際にそうすれば魔法のように何かが上手くいく気がしますが、結果的にデータ解析の部分がブラックボックス化してしまいます。それでは、杜氏が技術をブラックボックス化していた時代に逆戻りです。 データは、皆が見えるからこそ意味があるのです。データを確認したうえで、発酵の温度を上げてみる、あるいは、コメに吸わせる水分を増やしてみる。あるチームはそれを試してみて、別のチームは違うアプローチをしてみる。そして、これは良かった、あれは悪かったと、繰り返していく。PDCAを回して、アジャイルしながら酒造りをしているのです」(桜井氏)
杜氏を使わないというと、1年を通じて画一的、均一的な日本酒を造っていると思ってしまうが、これも違う。 「味は毎回変わっていて、少しでも美味くなるようにいつも努力しています。獺祭ブルーにしてもそうです。土地も、コメも、水も違う。だから最初は美味しくできない。だったら、美味しくない理由は何なのかその原因を探りながら、美味しくなる要素を伸ばす。そうして、美味しくなるためのデータを積み上げていきました」(同) 美味しくない理由を探る中、「施工段階での見えない汚れがあるのではないか」などの想定のもと、全員で設備の掃除からやり直してみるといったことなどを繰り返したという。イメージとは逆に、人が泥臭く、試行錯誤を繰り返しているのだ。 これは日本でも同じだ。山口県岩国市の本社蔵を案内してくれた副蔵長の野中裕介氏は醸造タンクの温度計を見ながらこう話してくれた。 「温度の数値自体は、データで飛ばすことはできます。でも、実際にタンクの前に立って色や匂いを感じることが大切なのです」 他にも、洗米した後、コメに水分を吸わせるための機械を導入したが、廃棄することになったと教えてくれた。産地によってコメの品質が違うので、やはり、「人の手でやるべきだ」となったそうだ。 獺祭NYの松藤氏も「大吟醸を造る酒造会社も増えてきましたが、われわれは、大吟醸しか造っていません。それは、一人の杜氏が造るよりも何十倍もの経験値になっています。それをデータにして、皆で共有する。それこそが、われわれの強みだと思います」と、データ共有の重要性を強調する。