一人の建築家が「広島・尾道」を海外クリエイターたちとの交流の場に選んだ理由[FRaU]
当時、尾道の風景を守るために、その建物を買い取って定期的に手入れしていたという地元の前オーナーから、縁あって母屋と離れを引き継ぐことになった長坂さん。海外から帰国後、コロナ禍での隔離を兼ねて、この家に2週間試泊したことも購入のきっかけになったという。また、具体的な使い道についてのアイデアが、その決断を後押しした。 「買いたいなと思った理由のひとつには、海外から日本に来て長期滞在したいという友だちに、積極的に勧められる宿泊先がなかったというのもありますね。試しに泊まってみた時もすごく居心地が良くて。風呂もトイレも隣の離れまで行かないとなくて本当は不便なはずなのに、それすら楽しめるなんてとてもいい環境だと感じ、買う決断をしました」
特殊な土地の風景を後世に受け継ぐ難しさ
長坂さんが譲り受けた家は、築約110年。もともと商家の人が接待用の別宅として建て、その後、個人宅や料亭として使われた歴史もあるというが、古さに加え、長年空き家だったこともあり、多くの問題を抱えていた。 「ホテルにする案もありましたが、全てきっちりと設備なども含めて修繕をするには多額の費用がかかる。それに、そもそも高級なホテルになってしまったら友だちを泊められないし、2階の窓が低いからこそ一望できる尾道水道の景色も、手すりや何かで失われてしまったら意味がない。そこで、オランダの友人であるスザンヌ・オクセナールに相談して“みんなの家”のような場所として運営するのがいいのではないかということになったんです」
昨年9月、〈LLOVE HOUSE〉での展示イベントも企画したアートディレクター、スザンヌさんに相談し、様々なジャンルのクリエイターがそこで過ごし、地域との交流ができるような場所を目指すことにした。宿泊するゲストに昔ながらの生活を体験してもらえるよう、空間はなるべくありのままを残しながら修繕をする。できる限り空間に手を加えずにといっても、築年数のある建物の再生は決して簡単ではない。工事監理からこの建物に関わり、現在は家族で尾道に移住して〈LLOVE HOUSE〉を管理する、元スキーマ出身で建築デザイン事務所studio basketを主宰する中田雅実さんは言う。