一人の建築家が「広島・尾道」を海外クリエイターたちとの交流の場に選んだ理由[FRaU]
「山手は細い路地や石畳に囲まれていて、建物の前まで車が入れない。大きな重機が使えず、その分を人手で補う必要がありました。例えば、屋根の一部を直す時も、下から長い階段を上り下りして、足場を運ぶところから始めなければなりません。その他の建材やごみの運搬も、もちろん業者に頼めばやってもらえますが、持ち運びだけで平地での工事と比べて2~3倍の工事費がかかってしまう。 法規的にも、建築物の敷地というのは幅4m以上の道路に接していなくてはならないなどの条件があって、このエリアは一度建物を壊してしまうと建て直しができない土地ばかりなんです。逆に言えば狭い斜面地のため、物理的に工事のハードルが高く、基本的に建て替えができないから、この風情が残っているという側面もあるんですね」
いまや日本のどの地域も、高齢化による空き家問題を抱えているが、山手という土地の特性上、建物の改修が難しいこともそれに拍車をかける要因になっていると言えるだろう。また、階段の上り下りが困難になって家を手放す高齢者もいる。今回、建物の工事費用はクラウドファンディングで集められたが、多額のコストを抑えるため、プロでなくてもできる運搬や塗装などの作業はワークショップの参加者などが協力した。これが結果的に、知識を共有する取り組みにもつながった。 また、長坂さんや中田さんが建築の専門家として、ホームページなどで古くなった建て替え困難地の建物の修繕と再生の方法、そのノウハウを詳細に開示することも、尾道に大切な風景を残すことに一役買っている。そしてこの経験はまた、尾道以外の地域にあっても、皆が活かせるものになるに違いない。
「尾道は早くから空き家の問題を抱えていたこともあり、尾道空き家再生プロジェクトというNPO団体が長く活動を続けて、課題解決に取り組んでいます。それもあって、作業をする時に手伝ってくれる地元の人がいたり、多くの人の協力を得ました」(中田さん)