『光る君へ』武闘派貴族で“天下のさがな者”だった藤原隆家が大活躍した「刀伊の入寇」の顛末
■ 合戦シーンのない平安時代を魅力的に描いた『光る君へ』 京から離れた九州での出来事なので、「刀伊の入寇」がここまでクローズアップされるとは予想していなかった。 前回の記事(「諸説ある紫式部の没年、最終回に向けてドラマではどんな『旅』が待ち受けているのか」参照)で解説したように、紫式部については没年の説が幅広く、晩年の足取りが分かっていない。そのため「ここからの式部をどう描くかは脚本家次第で、自由に動かすことができる」と書いたものの、まひろが異民族の侵攻に巻き込まれるとまでは思わなかった。 ちなみに、かつてまひろが越前で出会った宋人の周明は、ドラマのオリジナルキャストである。今回の放送では、まひろと周明は大宰府で再会を果たしたにもかかわらず、まひろをかばった周明が、異民族の矢に倒れるという衝撃的なラストとなった。 まひろの動きが想像以上にアクティブになったが、そのおかげで「刀伊の入寇」がどんなものだったのかをよく知ることができた。 それにしても、今回の大河では初めての合戦シーンとなった。改めて『光る君へ』は、刺激的な合戦に頼れない中で、よくぞこれだけ魅力的なストーリーに仕上げたものだと感心した。これまでの表向きは平和な貴族社会とのギャップもあって、今回の異民族からの侵攻では、命が次々と奪われる合戦の残酷さがよく伝わってきた。 次回タイトルは「哀しくとも」。SNSなどで「恐ろしい……」「誰に向けて言っているんだろう」と話題になっているのは、次回予告で流れた道長の妻・倫子の「私が気付いていないとでも思っていた?」というセリフである。道長の晩年がどう描かれるのかも含めて、注目したい。 【参考文献】 『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社) 『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫) 『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館) 『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館) 『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館) 『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書) 『三条天皇―心にもあらでうき世に長らへば』(倉本一宏著、ミネルヴァ日本評伝選) 『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)
真山 知幸