開店30分前から行列のベーグル店、観光気球「ソウルの月」…1万円で堪能したとっておきの韓国旅
いつか行ってみたい-。西日本新聞の海外特派員がひそかに実現の機会をうかがっていた“とっておき”の旅があった。各国で物価高が言われる中、最大1万円(2024年12月2日の為替レートで現地通貨に換算)という制限を設けながら、どんな小旅行を楽しめるのか。各国に旅を計画する皆さんにも、参考になりますように。 【写真】豊富なベーグルが並ぶ「ロンドンベーグルミュージアム安国店」 2024年1~10月に韓国を訪れた日本人観光客は約232万人。韓国の街に詳しい日本人が増え、先日は、日本に住む友人からソウルのおいしい店を教えられてしまった。「いつでも行けるから」とのんびりしていては、話題についていけなくなってしまう。人気スポットを巡ってみよう。 韓国通なら知らない人はいないソウルの人気ベーグル店「ロンドンベーグルミュージアム安国店」。午前8時の開店前に行列ができると聞き、少し前の7時半に到着したが、すでに50人ほどが待っていた。ほとんどが若い日本人女性のようだ。店頭の端末に電話番号を登録し、周辺を散歩する。約1時間後に入店すると店員が明るい声で迎えてくれた。 チーズ、オリーブ、ポテト…。色とりどりのベーグルの香りと柔らかい光があふれる。ハムとバターを挟んだベーグルを選び、アメリカーノコーヒーと合わせて1万3500ウォン。まぶしたごまとちょうどいい塩気が朝から食欲をそそった。 近くには韓国を代表する観光名所で、朝鮮王朝時代に建てられた王宮「景福宮」がある。広大な敷地に、幾重にも装飾が重ねられ、そり上がった屋根が特徴的な荘厳な建物が並ぶ。入場料は3000ウォンだが、伝統衣装の韓服を着ていれば無料。淡いピンクや水色の韓服を着た外国人に頼まれ、記念写真を撮ってあげた。 ランチは、学生街の新村で「プデチゲ」にした。漢字では「部隊鍋」と書く。朝鮮戦争時、物資が乏しかった韓国では、米軍から譲り受けたハムやソーセージを使って鍋を作り、飢えをしのいだ。1960年代ごろには労働者の飲み会の定番メニューとなり、いつしか韓国を代表する料理として定着した。 頼んだのは熟成キムチプデチゲ。ハムとキムチの酸味がよく合う。追加した乾麺が辛いスープと絡んで絶品だ。韓国の歴史に思いをはせながら、スープまで飲み干した。満腹になっても1人分で1万3500ウォン。庶民の味方だ。 ◆ ◆ ソウルから北朝鮮との事実上の国境である南北軍事境界線までは、40キロ程度しか離れていない。ソウル中心部から路線バスも出ており、約1時間で着く。往復で5600ウォンだ。 高層の住宅やアウトレットモールを通過して坡州市に到着。鉄条網で隔てられた川の向こうに北朝鮮の大地が見える。道路沿いのカフェでコーヒーとタルトを計9000ウォンで買い、見晴らしのいい屋上に上った。設置されていた望遠鏡をのぞくと、時代をさかのぼったかのような古い住宅や監視所、農作業する住民たち、草をはむ白い動物などがはっきりと見えた。 ソウルに戻り、今年8月に誕生した観光気球「ソウルの月」に乗ってみた。国会議事堂がある汝矣島地区の上空約130メートルまで垂直に上昇する係留式の気球だ。20分ほどの飛行で料金は2万5000ウォン。 気球が十数人を乗せてゆっくりと上昇すると、ソウル中心部を流れる漢江沿いの巨大な現代デパートや高層住宅、車のライトが瞬く美しい夜景が一望できた。先ほど見た北朝鮮との落差が頭をよぎった。 夕食は、新村に戻って羊肉の串焼き「ヤンコチ」に。肉を刺した金属の串に歯車が付いており、テーブルの機械にセットするとクルクルと回ってむらなく焼ける独特のシステムだ。見ているだけで楽しい。3分ほどで焼き上がり、スパイス粉を付けて食べる。中国がルーツの料理だけに青島ビールがよく合う。1人分で計2万1500ウォンだった。 韓国人の友人に聞くと、ヤンコチは2、3軒目に行くのがいいらしい。濃い味なので、満腹でもおつまみとして食べるのにちょうどいいのだとか。 韓国の物価は上昇傾向だが、工夫すれば費用を抑えて楽しめる場所はまだ多い。来年は、あなたの「1万円旅」を作りに韓国に来てみてはいかが。(ソウル山口卓)