センバツ2024 田辺惜敗も熱戦で魅了 76年ぶり勝利へ一歩届かず /和歌山
昨秋チャンピオンにあと一歩――。第96回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第1日の18日、21世紀枠で出場した田辺は、星稜(石川)に2―4で惜敗した。昨秋の明治神宮大会優勝の王者に対し、同点で終盤を迎えるなど善戦。76年ぶりの勝利はならなかったが、OBや地域の人らも訪れたアルプススタンドからは、選手たちに拍手が送られた。【橋本陵汰、安西李姫】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 甲子園で番狂わせとはならなかったが、最後まで星稜を追い詰めた。 1点を追う三回、尾崎大晟(2年)が中堅へチーム初安打。2死二塁となり、岡本和樹(3年)が「(名物応援の)『田辺が大将』が流れていて力をもらえた」と右翼へはじき返し同点とした。父裕文さん(53)は「つないでほしいと思っていたがタイムリーになるとは」と喜んだ。 四回には相手に勝ち越しを許したが、その裏、先頭で主将の山本結翔(ゆいと)(3年)が左中間に二塁打を放つと、三塁まで進み、前田海翔(2年)のスクイズで再び同点。山本結の父真大さん(39)は「ここまできたら勝ってほしい」と願った。 エースの寺西邦右(ほうすけ)(3年)の父秀雄さん(50)は「こっちがどきどきする。いつも通り落ち着いて」とエールを送り、それに応えるかのように五回以降は互いの投手が点を与えず投手戦となった。 2点を勝ち越された九回、先頭打者の山本陣世(3年)の打球は大きな放物線を描きバックスクリーン方向に飛んだが、もう一伸び足りず、相手中堅手のグラブに収まった。続く前田が左前打で出塁し、寺西の左越え二塁打でチャンスを拡大したが、追加点を奪えなかった。 アルプススタンドには地元からたくさんの人たちが応援に詰めかけ、熱戦を見守った。OBの横田圭亮さん(41)は「本当に誇らしい。最高の場所に連れてきてくれた選手たちには感謝しかない」と涙を流し、後輩をたたえた。 ◇天国にも感動を 感謝の二塁打 亡き祖父に誓った聖地での活躍 山本結翔主将 「おじいちゃん、頑張ったよ」。76年ぶりにセンバツに戻ってきた田辺の山本結翔主将は、4カ月前に祖父秀孝さんを72歳で亡くした。強豪・星稜に敗れたものの、山本主将は四回に二塁打を放ち、同点のホームも踏んだ。「今日も天国から見てくれていたと思う」。山本主将の試合はほとんど観戦していた秀孝さんに甲子園で活躍する姿を届けられた。 「野球が生きがい」と常々口にしていた秀孝さんは、山本主将の試合は小学校から高校までほぼ全て観戦した。2年ほど前からがんで入退院を繰り返したが、それでも可能な限り、各地のグラウンドに足を運んだ。 田辺は昨秋の県予選で、夏の甲子園出場の市和歌山を山本主将の2安打などの活躍で降した。準決勝の智弁和歌山戦も終盤に逆転して2試合連続の番狂わせを起こし、52年ぶりの近畿地区大会出場が決定。秀孝さんは「市高、智弁を倒すところを見られて良かった。近畿でも今まで通り頑張れよ」と喜んだ。大阪市で開かれた近畿大会にも、入院していた病院から許可をもらって駆けつけた。試合には敗れたが、終盤に一時勝ち越しとなる適時打を放つ山本主将の姿を観戦した。 昨年11月10日、21世紀枠県推薦校に選ばれた時、秀孝さんは会話をするのも厳しい状態だった。「甲子園でも結翔なら活躍できる」とエールを送った6日後、病院で亡くなった。山本主将は「言葉が出なくて悲しかった。甲子園でも見てほしかった」。葬式では、感謝の手紙をひつぎの中に入れて見送った。 この日、チームは星稜にリードを許してもすぐに追いつく粘りの野球を見せ、山本主将も中心選手としてチームを鼓舞し続けた。試合には敗れたが、「これからも頑張るので応援してね」と秀孝さんに今後の活躍を誓った。【橋本陵汰、安西李姫】 ◇耐久も堂々行進 〇…開会式に臨んだ耐久と田辺の選手たち。あいみょんさんの「愛の花」を編曲した入場行進曲に合わせて堂々と行進し、両校の名前が呼ばれると球場は盛大な拍手に包まれた。演奏したのは近畿の警察音楽隊で、和歌山県警も彩りを添えた。両校ともプラカードを持ったのはマネジャーで耐久は山本結菜さん(2年)、田辺は野田愛莉さん(3年)が担当。耐久の赤山侑斗主将(同)は「拍手が大きくてうれしかった。いざ開幕して『やるしかない』という気持ちになった」とすがすがしい表情を見せた。行進のかけ声は井原正善監督の指示で、チームの「元気印」である白井颯悟(2年)と江川大智(同)が任された。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇粘りの投球エースの力 寺西邦右投手(3年) 「真っすぐで押していこう」。試合前、捕手の前田海翔(2年)と決めていた通りの力強いストレートで粘りの投球を披露した。昨秋の日本一の打線に「(八回まで)2点で抑えられたのは自信になる」と大舞台でエースの力を見せつけた。 冬場は、夏に違和感のあった肘を休ませるためノースローで調整。その分、体力アップや下半身の強化に取り組んだ。この日、最後までプレッシャーのかかる試合で139球を投げ抜いたが「疲れは感じなかった」と冬の成果を発揮。4盗塁を決められたが、「ピンチでも落ち着いた投球を心掛けた」と動じなかった。 同点の九回1死二、三塁で、相手打者にインコースの直球をうまく外野に運ばれたが、後続は抑えた。その裏、「自分が点を取られたのでつなぐ意識で打席に立った」と1死一塁から左越えの二塁打を放ち、バットでも見せ場をつくった。 「いい試合はできたが1回は勝ちたかった」と悔しさをにじませるが、「憧れの舞台で投げられたことは財産になった。万全な状態で夏に戻ってきたい」。【橋本陵汰】